【新子望SS】晴絵「勝手じゃないか」望「晴絵の方が勝手だよ」

1 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:14:15ID:GvbUCxmu0

9年前、私たち阿知賀女子麻雀部は県内無敗だった晩成高校を破りインターハイへ出場した。

だけど、エースだった晴絵は後に日本最強と呼ばれる小鍛治健夜に一矢報いるも返り討ちに去れ、

それが原因で準決勝止まり、全国ベスト8にとどまってしまった。

初出場にしてベスト8ということで、地元はそれなりに盛り上がったみたいだった。

それでも、晴絵は準決勝の大量失点をずっと気にしているみたいだった。

だけど、私たち他のメンバーも。

晴絵の失点をフォローするだけの結果を残せなかったことを悔やんでいた。

あそこで倍満を決められていたら。

あそこで振り込まなければ。

あそこで鳴いておけば。

そんな自問自答を東京から帰ってくる道中ではずっと繰り返していた。

2 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:15:15ID:GvbUCxmu0

阿知賀に帰った私たちに出迎えはなかった。

準決勝敗退という結果に終わったことに失望された……ということではなかったと思う。

敗退が決まって盛大に落ち込んでいる瞬間がテレビで放映されて、

そんな私たちを帰ってすぐ大勢で出迎えても……という地元の優しさだったんだと思っている。

だけど、そんな優しさとは関係なく、私たちを出迎えてくれたファンがいた。

私の妹と同じくらい、まだまだ小さいひとりのちびっ子ファンだったけれど。

その子の出迎えは、晴絵の傷を少しだけ癒してくれた。

インハイが終わって、帰りの道中ずっと空元気だった晴絵が、

そのちびっ子と話している時だけは、いつもの頼もしい笑みを浮かべているように見えたから。
4 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:19:16ID:GvbUCxmu0

――――――――

インハイが終わると、参加してくれていた3年生の先輩方は進学やら就職やらで忙しくなり、

晴絵もインハイのショックは相当だったようで、牌を握ることもなくなってしまった。

部室に顔を出すことも少なくなってきて、4人集まることも稀になった麻雀部は自然消滅のような形で活動を縮小していった。

折角インハイ出場を果たした阿知賀女子だったけれど、翌年は県大会へ出場することすらなく、奈良代表の座は再び晩成高校が獲得した。

そうして阿知賀のレジェンドは幕を閉じたのだった。

5 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:23:17ID:GvbUCxmu0

――――――――

そしてあのインハイから2年半が過ぎ、3年の3月、つまり卒業を迎えて。

晴絵「今日でこの校舎ともお別れかー。」

望「長かったようで短かったね。」

晴絵「望はこっちに残るんだっけ?」

望「うん。いわゆる家事手伝いって奴。」

晴絵「なんか大人って感じだな。」

望「あはは、あんまり実感ないんだけどね。晴絵は大学だっけ。」

晴絵「そうそう。入試大変だったよー。まあ、県内の大学だから実家から通うし、時々は会えるさ。」

望「晴絵は、さ。」

晴絵「ん?」

望「もう麻雀、打たないの?」

7 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:28:32ID:GvbUCxmu0

晴絵「……時々は打つさ。」

望「時々ってどのくらい?麻雀部に来なくなってから何回打ったの?」

晴絵「そういう望はどうなんだよ。その……あれから全然打ってないんだろ?」

望「打ってるよ。妹と、その友達と、家族麻雀みたいなものだけど、週に1回くらい教えながら打ってる。」

晴絵「へえ……。」

8 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:32:17ID:GvbUCxmu0

望「晴絵、大学からでも、ううん、今からでも。麻雀、またやりなよ。」

晴絵「……無理だよ。今の私は、阿知賀のレジェンドじゃない。ただの負け犬だ。麻雀なんて打てない。」

望「晴絵……。」

晴絵「……あのインターハイ。あの準決勝までは、私ね、絶対優勝できるって思ってたんだよ。」

晴絵「でも、無理だった。私は準決勝で、なすすべもなく一方的にやられるだけだった。」

望「でも、相手はプロで新人王も取った小鍛治さんだった。」

望「小鍛治さんは決勝でも圧勝してたし、あのインターハイで1番いい勝負をしたのは、きっと晴絵だよ。」

11 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:38:06ID:GvbUCxmu0

晴絵「客観的な評価なんてどうでもいいんだよ。私がそれまでやってきた麻雀が、あの試合ではまったく通じなかった。」

晴絵「今もね、家で牌を持ってみることはあるんだよ。だけど、その度にあの時の感覚を思い出しちゃうんだ。」

晴絵「長い間積み上げてきたものが、一瞬で崩される、あの感じをね。」

望「晴絵……。」

晴絵「だから、麻雀はできそうにない、かな。って言っても、望には分からないかもしれないけど。」

望「……分からないよ。」

晴絵「え?」

12 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:42:33ID:GvbUCxmu0

望「私だって、あのインターハイでは、何もできなかった。」

望「晴絵に頼りっぱなしで、小鍛治さんと対局している晴絵をただ見ているだけで。」

望「私がもっと強ければ、晴絵が後ろを気にせずに緊張せずに打てたかもしれない。」

望「私がもっと強ければ、前半戦の後に晴絵にアドバイスできたかもしれない。」

望「私がもっと強ければ、晴絵の代わりにエースになって、小鍛治さんと対局できたかもしれない。」

望「ずっとずっとね、考えてたんだよ。そんな私の気持ち、晴絵には絶対分からない。」

望「だから、私も晴絵のそんな勝手な言い分、分からないよ。」

14 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:47:04ID:GvbUCxmu0

晴絵「なんだよ、それ。そんなの、望も勝手じゃないか。」

望「晴絵の方が勝手だよ。」

晴絵「悲劇のヒロインぶっちゃってさ、『負けたのは自分のせい』だなんて、あそこで負けたのは私の責任なのに。」

望「インターハイの時も言ったけど、団体戦の負けはチームの負け、晴絵だけの責任じゃないから。」

晴絵「それでも責任の大きさに違いはあるでしょ。あの負けは私の責任が1番大きい。」

望「だから、晴絵に頼りきりになってたチーム全員の責任なんだってば!」

晴絵「違うよ、エースの私のせい!」

望「全員の責任だって!」

晴絵「私!」

望「全員!」

15 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:48:13ID:oi/s3tmW0

青春やな

16 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:51:11ID:GvbUCxmu0

…………………………
…………

晴絵「はあっはあっ、望も強情なんだから……!」

望「けほっけほっ、晴絵こそ……!」

晴絵「はあっ、ははっ、はははははっ!」

望「けほっ、あはっ、あははははっ!」

晴絵望「「あははははははは!」」

17 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 17:55:31ID:GvbUCxmu0

晴絵「望、なんていうか、ごめんな。私、自分のことだけでいっぱいいっぱいだった。」

望「ううん、私も、晴絵の気持ちちゃんと考えてなかった。ごめんね。」

晴絵「今はまだ無理だけどさ。いつか、また打つよ、麻雀。」

望「うん、きっと、打てる。晴絵なら打てるよ。」

晴絵「はは。その為には少しずつリハビリしてかないとなー。」

望「ねえ、晴絵。それなんだけどさ、小学生に麻雀教えてみるってどう?」

晴絵「小学生?」

18 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:01:21ID:GvbUCxmu0

望「私、最近ね、妹と妹の友達と麻雀打ってるんだ。」

晴絵「そう言えば、さっきそんなこと言ってたね。」

望「妹が言うには、結構小学校でも麻雀に興味ある子が多いんだって。」

望「そんな子たちを集めて、放課後とか休みの日とかに麻雀教えてくれるところがあればね、っていつも話してるの。」

晴絵「麻雀教室か。」

望「麻雀部はなくなっちゃったけど、部室はまだそのままだし、麻雀教室やるなら使わせてもらえると思うよ。」

望「直接打つのはまだ辛いかもしれないけど、子ども相手に麻雀教えるくらいなら、どう?」

晴絵「うーん、人に教えるのってしたことないからなぁ。」

望「晴絵なら大丈夫だよ。インハイの時だって相手の打ち筋調べて対策立ててくれたじゃない。」

晴絵「それとはまた違うと思うんだけど……。」

19 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:04:40ID:GvbUCxmu0

望「とりあえず、今度暇な時にうちに来て、妹と友達の麻雀見てあげてよ。」

晴絵「まあ、それくらいなら。」

望「ふふ。私の妹だけあって、結構筋はいいんだからね?」

晴絵「言ってろ。」

21 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:09:23ID:GvbUCxmu0

――――――――

そうして、晴絵は大学に入ってしばらくすると、阿知賀で子ども麻雀教室を始めた。

麻雀教室は盛況で、憧や穏乃ちゃんはよく入り浸っていた。

子どもたちのまっすぐな打ち筋は晴絵にとっていい影響になったみたいだ。

最初は後ろで教えるだけだった晴絵も、時が経つにつれて子どもたちと一緒に卓を囲むようになっていった。

ドラが集まる子がいる、とか、今は荒削りだけどデジタル派のいい打ち手になりそうな子がいる、とか、

新しい子が入ってくる度に嬉しそうに話す晴絵の姿はインターハイを目指していたあの頃と同じだった。

麻雀教室を晴絵に勧めて良かった。晴絵の話を聞く度に私はそう思った。

22 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:14:30ID:GvbUCxmu0

時間はあっという間に過ぎて、晴絵は大学を卒業し、福岡の実業団からスカウトを受けた。

正直晴絵ならプロだって行けると思っているけれど、あの小鍛治さんがいるところへ行くまでには、まだ晴絵の傷は癒えてなかったのだろう。

晴絵の大学卒業と同時に阿知賀子ども麻雀教室は閉鎖されてしまったけれど、その仲間達の絆は残っていたみたいで。

かつて麻雀教室があり、そして私たちがインターハイを目指した阿知賀の部室では、

穏乃ちゃんや玄ちゃん、憧がメンバーを集めて、再び阿知賀からインターハイに行くために日々麻雀を打っている。

正直、憧は晩成に行くと思っていたから、阿知賀に行くと聞いた時は驚いたけれど、

かつての仲間だった和ちゃんと遊ぶために阿知賀からインターハイを目指すと聞いた時は妙に納得してしまった。

そして、そのメンバーに9年前、インターハイから帰ってきた私たちを唯一出迎えてくれたちびっ子がいると聞いた時にはびっくりしたものだ。

24 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:18:08ID:GvbUCxmu0

麻雀教室には参加してくれなかったあの子が、今は憧や穏乃ちゃんと一緒にインターハイを目指している。

私たちが全国優勝を目指し、夢半ばで戻ってきたことが、回り回って新しい絆を作り上げている。

そう考えると、あの敗退も悪いことじゃなかったのかも、なんて思ったりして。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、小鍛治さんに感謝するのだ。

25 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:23:17ID:GvbUCxmu0

そして、今日。晴絵が阿知賀に戻ってくる。

何でも所属していた実業団チームが廃部になってしまったということだけど、

憧たちが麻雀部を復活させたこの時に戻ってきたのはきっと運命だ。

天気予報が雪だったことを口実にして、晴絵が駅に着く時間は聞いておいた。

車で送っていくと言えばきっと乗ってくるだろう。

そして、阿知賀が見える道を通ればきっと晴絵は学校に行きたがるはず。

そこで麻雀部が復活していることを知ったら晴絵はなんて言うだろう。

あの時のちびっ子がいることを知ったらどんな顔をするだろう。

想像すると自然と笑ってしまう。

さあ、晴絵を迎えに行く時間だ。
カン

26 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:25:39ID:GvbUCxmu0

短いけどこれで終わりです
支援してくれた方ありがとうございました

IDに記号があったらコンマで望さんのSS書くって書いたのに
xが乗算記号だとか単位があるとか言われた時には泣きました

28 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします : 投稿日:2013/03/27 18:35:43ID:336YM1eJ0


望さん美人

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