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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/11/25(火) 02:20:32.92 ID:uIeEa6Mo0
立ったら書く
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:21:26.37 ID:uIeEa6Mo0
淡(ずっと、わたしはイライラしていました)
淡(プロリーグ、U-21日本代表の選考合宿)
淡(年上のプロたちの中で、わたしはなかなか対戦に勝つことができませんでした)
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:21:55.53 ID:uIeEa6Mo0
淡(この合宿、代表に選ばれるのはもちろんのこと、)
淡(練習試合のベンチ入りすら大変な毎日)
淡(選手たちはみんな、なんとか選ばれようと必死な日々を送っています)
淡(わたしもその中のひとり)
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:22:30.44 ID:uIeEa6Mo0
監督「そこまで、全員集合!」
監督「今日の収支ランキングを発表する」
淡(わたしにはわかっていました)
淡(わたしはよくて中の上、日によってはそれ以下も)
淡(そして上位は)
監督「上から、荒川・宮永・鶴田」
監督「以下、全員分を貼りだしておくから、見ておくように」
監督「それでは、解散!」
全員「ありがとうございました!」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:23:41.46 ID:uIeEa6Mo0
淡(上位メンバーは、だいたい決まっていました)
淡(そしてわたしは)
淡「あ…れ…」
淡(その日は、下から数えたほうが早いところにいました)
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:24:20.62 ID:uIeEa6Mo0
淡(ちなみに、2位の宮永というのは、)
淡(テルではなく、その妹)
淡(宮永咲…サキのことです)
淡(テルや辻垣内、福路がここに入っていないのは、単に年齢制限やリーグの違いだけど)
淡(サキはすでに、そこに混じっても負けないぐらいの、強い選手でした)
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:24:54.66 ID:uIeEa6Mo0
淡(年上ならまだしも、同年齢が活躍するのを見るのは、もちろんいい気分がしません)
淡(しかも、やっぱりテルの妹)
淡(似た顔のうえ、)
淡(麻雀のとき以外は目立たず、あまり人と交わらず、一人で表情を変えずに本を読んでいる)
淡(それが王者の証のように思えて、くやしいのでした)
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:25:30.74 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(今日は、長い合宿で数少ない休養日)
淡(選手たちは、仲の良い同士で出かけたり、地元に電話したり)
淡(みんな、思い思いに過ごしています)
淡(荒川憩のように、地元の福祉施設でボランティアとかいう変わり者もいますが…)
淡(友達のいないわたしは、ネット麻雀か散歩ぐらいしかやることがありません)
淡(アイスでも食べようかと、近くの公園をうろうろしていると)
淡「あ…」
淡(サキがいました)
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:26:00.65 ID:uIeEa6Mo0
咲「…」ペラッ
淡(ベンチに座って、いつものように一人で本を読んでいました)
淡(指先とまぶた以外はほとんど動かさず、吟味するようにページをめくっていきます)
淡(昨日のボロ負け具合を思い出して、わたしはムカムカしてきました)
淡(こっそり近づいて、ちょっと邪魔してやろうと思いました)
淡(まあ、ただの八つ当たりなのですが)
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:26:58.81 ID:uIeEa6Mo0
淡「…」
咲「…」ペラッ
淡「…」
咲「…」ペラッ
淡「…」
淡「ねえ、サキ」
咲「わ、わっ!」アタフタ
淡(なんとも間抜けな慌て方でした)
淡(こんなのがテルの妹、同世代トップかと思うと、ため息をつきたくなりました)
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:27:31.98 ID:uIeEa6Mo0
淡「サキ、また一人で本読んでんの」
咲「そ、そうだよ」
淡「楽しい?」
咲「うん、楽しいというか、おもしろいよ」
淡(膝の上から落とした本を拾いながら、顔をこっちに向けて言いました)
淡(イヤミのつもりだったのですが、少し微笑みながら答えてきたので、拍子抜けでした)
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:28:14.85 ID:uIeEa6Mo0
淡「ふうん、何読んでるの」
咲「イギリスの、ちょっと古い恋愛小説だよ」
咲「淡ちゃんも、本読むの?」
淡(サキが、ベンチを空けるように少し横にずれました)
淡「ふん、読むわけないじゃん」
淡「いいね、余裕で」
咲「…」
淡(かっこ悪いと思いながらも、わたしは捨て台詞をはいてその場を離れました)
淡(わたしが立ち去る間、サキがこっちを見ていたのか、すぐ読書に戻ったのか)
淡(わたしにはわかりません)
淡(自分に嫌気がさし、手に持ったアイスを口に運びながら、振り向くこともできずに歩きました)
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:28:56.63 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(次の日も、その次の日も、わたしの対戦成績は低迷していました)
淡(上位メンツとの差は、ますます開くばかり)
淡(戦い方をいろいろ工夫しても、どうしてもうまくいきません)
淡(高校生のころは、こんなことなかったのに)
淡(さすがのわたしも、だいぶまいってしまいました)
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:29:42.73 ID:uIeEa6Mo0
淡「…」
淡「ヒック…ヒック…」
淡(またある日の夜、食事と入浴を終え、他のみんなが自由時間を過ごしているころ)
淡(フロアのランドリールームで洗濯しながら、わたしはひとり泣いていました)
淡(さっきまで、自分の部屋にいた時はなんともなかったのに)
淡(洗濯という単純作業が一段落したとたん、急に気持ちが弱くなってしまったのでした)
淡「ヒック…ヒック…」
淡(涙というのは、流したことのない期間が長ければ長いほど)
淡(いったん流れ始めると止まりません)
淡(顔をぬぐう余裕もなく、次から次へと悲しい気持ちが吐き出されていきます)
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:30:34.14 ID:uIeEa6Mo0
淡(そして、声を抑えるのが難しくなってきたそのとき)
淡(こっちに近づいてくる足音がしました)
コツ、コツ、コツ
淡「ヒッ……」
コツ、コツ、コツ
淡「……」
ガチャ
淡「……」
咲「あ、あ…淡ちゃん…?」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:31:10.76 ID:uIeEa6Mo0
淡「うう……ヒック…ヒック…」
淡(一番見られたくない相手に、見られたくない姿を見られてしまいました)
淡(わたしは終わりだ、と思いました)
咲「淡ちゃん…」
淡「…」ヒック…ヒック…
咲「淡ちゃん」
淡「…うっさい! あっち行け!」ヒック…ヒック…
淡(サキは、何も言わずに隣に座りました)
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:31:53.36 ID:uIeEa6Mo0
咲「…」
淡「あっち行っちゃえ、ばぁか」ヒック…ヒック…
咲「…」
淡「サキには、関係ないでしょ…」ヒック…ヒック…
咲「…」
咲「淡ちゃん」ニコッ
淡「…?」
カキカキ
咲「これ、わたしの部屋番号」
淡「……え…?」
咲「よかったら、こんど来て」
咲「じゃあ、おやすみなさい」ヒョイ
ガチャ
淡「…」
淡「…ふんだ、行くもんか…」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:32:30.89 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(その次の日も、練習は続きます)
淡(もちろん、サキと対戦することも)
淡(この前のこと、サキはどう思っているのかわかりませんが、)
淡(わたしは平静を装って打ちます)
咲「ツモ、嶺上開花 1600・3200です」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:33:08.66 ID:uIeEa6Mo0
淡(サキは、強いです)
淡(今日は一日中、サキの打ち方を観察していました)
咲「ツモ、嶺上開花、チンイツ、ドラドラ 4000・8000です」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:34:06.47 ID:uIeEa6Mo0
淡(毎度、呼吸をするように嶺上開花で和了るのにはあきれますが)
淡(強さの秘訣)
咲「ツモ、嶺上開花、ドラ3 8000」
淡(サキの麻雀は、わたしやテルや菫先輩のように破壊的ではありません)
淡(むしろ、すべてを包み、許すような)
淡(そんな、愛情深く、母性的な勝ち方をします)
淡(わたしは、認めたくありませんでした)
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:35:05.04 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(そして久々の休養日の午後)
淡(扉の前で、深呼吸をします)
淡「…」
淡「…」
淡「…」
淡(焦げ茶色のドアをノックしてみます)
トントン
「は、はーい?」
淡(わたしは答えません)
「あ、あの…」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:35:32.81 ID:uIeEa6Mo0
トントン
咲「…はい?」ガチャ
淡「…」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:36:08.65 ID:uIeEa6Mo0
淡(昼すぎだというのに、サキは起き抜けのまま、麻雀番組を見ていたようでした)
淡(わたしを部屋に入れると、あわてて身支度をしていました)
咲「ごめんね、ちょっと見始めたら止まらなくて」
咲「えへへ…」
淡「…」
淡(これが咲の部屋)
淡(ぬいぐるみのひとつもない、かわいげのない部屋でした)
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:36:49.65 ID:uIeEa6Mo0
咲「お姉ちゃん、いまドイツに遠征中なんだって」
淡「…」
咲「チョコレート送ってくれたの」
淡(サキは、紅茶のポットをテーブルに置きながら、そう話し始めました)
咲「合宿も、あと半分だね」
咲「だいぶ、疲れたなあ」
淡「…」
咲「ねえ見て、この雑誌」
咲「お姉ちゃんと菫さん、かっこいいね」
淡「…」
咲「他にも、石戸さんに白水さん、清水谷さん、愛宕さん、加治木さん」
咲「みんなすてき」
淡「…」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:37:37.72 ID:uIeEa6Mo0
淡(雑誌には、かつて戦った他校の選手たちが掲載されていました)
淡(もちろん、みんながプロとして活動していることは、わたしも知っています)
淡(でも、改めて見ると、みんな---)
淡「…サキ…」
咲「なあに?」
淡「…」
淡「なんで来たのかとか、こないだのこととか、聞かないの?」
咲「…」
淡「休みの日に、いきなり押しかけて」
咲「…」
咲「ニコッ」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:38:33.72 ID:uIeEa6Mo0
咲「ねえ淡ちゃん」
淡「ん…」
咲「淡ちゃんは…」
淡「…」
咲「淡ちゃんは、麻雀、好き?」
淡「え…」
咲「麻雀牌の絵柄の意味ってね、一説によると」
咲「昔の中国で、役人さんが一生懸命お仕事して、」
咲「お金をかせいで幸せになる、っていう意味なんだって」
咲「でも、わたしには違うふうに見えるなあ」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:39:22.23 ID:uIeEa6Mo0
咲「そこは、とてもすてきな場所なの」
咲「広い海に囲まれて、東西南北から太陽の光をうけ」
咲「…空には鳥が舞い、河には魚が泳ぎ、木々や草花が豊かに育つ」
咲「そんな景色が、千年も万年も続いてゆく」
咲「わたしは、嶺の上に花を咲かせる役目」
咲「淡ちゃんは、夜空に星を輝かせ、人々を導く役目」
咲「…わたしたち、自分の手でその美しい自然を作る、ストーリーテラーなんだよ」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:39:59.78 ID:uIeEa6Mo0
咲「淡ちゃん、麻雀は好き?」
淡「……」
咲「麻雀って、楽しいよね」
咲「わたしは、麻雀が大好き」
淡「……」
淡「…サキ」
咲「淡ちゃん」ニコッ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:40:36.70 ID:uIeEa6Mo0
淡(それから、わたしはサキの前で大泣きしました)
淡(サキの細い体に抱きついて、)
淡(謝るように、甘えるように)
淡(何を言いたいかもわからず、ただひたすら言葉にならない思いをぶつけました)
淡(サキは、そんなわたしの体を両腕でずっと包んだまま、何も言いませんでした)
淡(ただずっと、わたしが泣き止むまで、)
淡(わたしの髪を、その指で、やさしくなで続けていました)
淡(サキが強い理由が、わかりました)
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:41:29.72 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(それからというもの、わたしは毎晩、練習後にサキの部屋を訪れました)
淡(あたたかいものを飲みながら)
淡(麻雀の話をしたり、たわいないおしゃべりをしたり、)
淡(悩みを聞いてもらったりしていました)
淡(翌日が休みのときは、朝まで一緒でした)
淡(まるで世を忍ぶ恋人同士のように)
淡(というか、実際にそうなっていったのですが)
淡(わたしは、生まれて初めて、人を愛するということを知りました)
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:42:09.55 ID:uIeEa6Mo0
淡(人間、気の持ちようというのは大事なもので)
淡(そこから、わたしの対戦成績はどんどん上がっていきました)
淡(最近わかってきた、場を包み込むようなイメージ)
淡(そのイメージが、わたしを勝ちにつなげてくれるのでした)
淡(まだトップ3にはかなわないけど、あと一歩といったところで)
淡(監督も、周囲のメンバーも、とてもびっくりしていました)
淡(もちろん、サキとのことは、誰にも話していません)
淡(もっとも、日頃の行動を見ていれば、自然とわかってしまうものですが)
淡(わたしもサキも、それを表立って話題には出しませんでした)
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:42:39.29 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(とてもうれしかったことがあります)
淡(サキには、変わったくせがありました)
淡(大切なものを、心ゆくまで指先で確かめるくせです)
淡(まあ、プロの雀士ならよくあることなのかもしれませんが)
淡(以前、おそろいのコーヒーカップを買ったとき、)
淡(部屋に戻ってからずっと指でなぞっていて、気づきました)
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:43:31.92 ID:uIeEa6Mo0
咲「ああ、これ…子供のころからのくせなんだ」
咲「もし何か、いやなことや辛いことがあっても」
咲「その感触を思い出せば、乗り越えられるんじゃないかって…あはは」
淡(夜、いっしょのベッドに入ると、サキは手をわたしの方に伸ばします)
淡(わたしの髪の毛、くちびる、首筋、鎖骨のあたり、背骨の凹凸と)
淡(そのやわらかい指先でなぞっていきます)
淡(わたしはくすぐったくてはずかしいのですが、)
淡(それよりも、愛されていることの喜びのほうが大きいのでした)
淡(わたしは、幸せでした)
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:44:05.50 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(ついに、合宿の最終日を迎えました)
淡(今日は、いよいよ代表メンバーが決まる日です)
淡(さすがにゆっくり眠れず、何時間も前に目が覚めました)
淡(夕方、全員が大会議室に集まり、神妙な面持ちで発表を待ちます)
淡(発表は上位から行われ、正選手は5人、補欠は3人)
淡(その中に入らなければ、ここで終わりです)
淡(みんな、冷たい表情をしていました)
淡(監督が、ゆっくりと入室し)
淡(書類を取り出して、読み上げます)
淡(わたしは目をつぶって、隣にいたサキの手をとりました)
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:44:40.73 ID:uIeEa6Mo0
淡(結果は…)
監督「宮永咲 正選手」
…
…
…
監督「大星淡 正選手」
淡(わたしが…わたしが、呼ばれました…)
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:45:20.20 ID:uIeEa6Mo0
咲「淡ちゃん」
咲「おめでとう」ニコッ
淡「サキ…」
淡(本来なら、トップ通過のサキを賞賛しなきゃいけないのに)
淡(わたしは、その言葉がとっさに出ませんでした)
淡(でもサキは、いつものように穏やかな笑みで、わたしを祝福してくれるのです)
淡(この時ばかりは、人目をはばからずに大泣きしてしまいました)
淡(その間、ずっと)
淡(サキの両腕がわたしを包み、指がわたしの髪を静かになぞっていました)
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:45:56.35 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(代表入りが決まってから2週間後)
淡(わたしたちは、いっしょに暮らすことを決めました)
咲「高校生のころ、淡ちゃんは違う世界の人だと思ってたよ」
咲「明るくて、勝ち気で、都会的で」
咲「わたしは地味な田舎者だから…あはは」
淡(サキは、たまにおどけてこんなことを言います)
淡(実際、わたしはサキの友人知人にはいないタイプでした)
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:46:36.52 ID:uIeEa6Mo0
淡(わたしは、サキが大勢の人に愛されているのを知っています)
淡(姉のテルはもちろん、先日の雑誌で見た面々)
淡(別のプロリーグでトップを走る親友の原村や、竹井、池田、姉帯、末原、龍門渕)
淡(すでに牌を置いた天江や高鴨とも、いまだに親交があるといいます)
淡(もちろん、プロである以上、大勢のファンもいます)
淡(そんな人たちを差し置いて、わたしなんかがサキと一緒になってしまってよいものか)
淡(わたしは悩んだあげく、サキに相談しました)
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:47:17.33 ID:uIeEa6Mo0
咲「えっと…」
咲「わたしは、みんな大好き。淡ちゃんも大好き」
咲「それじゃだめかな…」
淡(はにかむように、こう答えるのでした)
淡(実際、わたしたちのことを報告したとき、みんな賛成してくれました)
淡(もちろん、テルと原村はすごくびっくりしていたのですが)
淡(ふたりいっしょに代表戦をまわれるのは大きいと、共感してもらえたみたいでした)
淡(サキといっしょにいるとき、わたしは常に将来のことを考えていました)
淡(明るい未来だけが見えていました)
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:47:56.98 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(ある日、不思議なことが起こりました)
淡(雲が厚く、星のない夜でした)
淡(外出からの帰宅途中、家からそう遠くないところで、道に迷いました)
淡(最寄りの駅で電車を降りて、いつも通りの道を歩いているはずが)
淡(どこまで行っても、見慣れた景色にたどり着けません)
淡(右に曲がっても、左に曲がっても、通行人にすら会いません)
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:48:50.89 ID:uIeEa6Mo0
淡(怖くなって、家にいたサキに電話をかけました)
淡(その瞬間、周囲の景色は、いつもの見慣れたものになっていたのでした)
淡(次の日も、その次の日も、同じことが起こりました)
淡(知っているはずの道に迷い、サキに電話するとまたいつもの景色に戻る)
淡(どれも同じように、雲の厚い、星のない夜でした)
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:49:33.35 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(その後、しばらくは天気がよく、不思議な体験はおさまったのですが)
淡(久々の曇りの日、予想通り、現象が起こりました)
淡(迷うことはわかっていたので、とっととサキに電話をかけようと思ったのですが)
淡(今回は珍しく、少し前を通行人が歩いていました)
淡(顔はよく見えませんでしたが、わたしと同じくらいの年かっこうの、女の子です)
淡(これまでのことも、もしかしたら解決するかもしれないと思い)
淡(わたしは、その人に声をかけました)
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:50:35.61 ID:uIeEa6Mo0
淡「あの、すみません」
通行人「はい?」
淡「○○町に行きたいのですが、道に迷ってしまって」
通行人「ああ、○○町ですか。近くですね」
淡「はい、すみませんが、道順を教えてもらえませんか」
通行人「いいですよ、あそこの信号が見えますか」
淡「ああ、あそこの…」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:51:18.76 ID:uIeEa6Mo0
淡(その人の示すほうに視線をそらした瞬間)
淡(わたしは、背中から刺されました)
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:52:01.85 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(そこからの展開は、早いものでした)
淡(わたしは涙を流すひまもなく、そのまま息を引き取りました)
淡(病院に運ばれたときは、すでに手遅れでした)
淡(犯人は、あの通行人)
淡(遺留品や足あとが証拠になり、すぐに逮捕されました)
淡(日本代表プレーヤーが事件にまきこまれたとあって、いろんな憶測が流れましたが)
淡(犯行動機は、いま思えば単純です)
淡(彼女は、わたしのファンだったのでした)
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:52:44.58 ID:uIeEa6Mo0
淡(わたしは、サキを愛するあまり)
淡(わたし自身が他の人から愛されているということに、気づきませんでした)
淡(もちろん、ファンと呼べる人たちはいたし)
淡(手紙やプレゼントをもらったりしたことはあったのですが)
淡(それは、なにか別の世界のやりとりにしか感じませんでした)
淡(わたしは愛情を受け取る能力に乏しかったのです)
淡(あの、道に迷う現象がなぜ起こったのか)
淡(結局、まだわたしにはわかりません)
淡(あのとき、サキに電話しておけばよかった)
淡(サキの声を、聞きたかった)
淡(わたしは、そうして自分を責めました)
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:53:23.81 ID:uIeEa6Mo0
淡(犯人が逮捕され、わたしの葬儀の段取りが固まってからも)
淡(サキは、ひどく取り乱していました)
淡(わたしが病院にいる間も、葬儀が始まってからも)
淡(サキはしきりにわたしを呼び、泣いていました)
淡(テルや原村、監督、その他大勢の支えのかいあって)
淡(ようやく落ち着きを取り戻し、外に出ることができたのは、わたしの納骨のときでした)
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:54:03.09 ID:uIeEa6Mo0
淡(晴れた空の下、着々と儀式が進んでいきます)
淡(テルも、原村も、他のプロのみんなも泣いています)
淡(サキは、硬い表情のまま、じっと前を見ています)
淡(あちこちで、わたしの思い出話をしている人がいます)
淡(進行役の人が、次の段取りを指示し、みんながそちらを向きました)
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:54:52.75 ID:uIeEa6Mo0
淡(その瞬間でした)
淡(サキが、出席者全員の目を盗んで)
淡(小石ほどの大きさの骨を、手の中におさめたのです)
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:55:31.84 ID:uIeEa6Mo0
淡(もちろん、だれも気づいていません)
淡(サキは、表情ひとつ変えませんでした)
淡(儀式のあいだ、サキはずっとそれを手の中に握っていました)
淡(子供が草の露をすくうように)
淡(技術者がねじをしめるように)
淡(指先で、すみずみまで確かめていました)
淡(その愛おしむようなしぐさに、わたしは心の底から満足をおぼえたのでした)
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:56:19.93 ID:uIeEa6Mo0
…
……
………
淡(その後、サキがどうなったのか、あまり情報はありません)
淡(風のうわさによると)
淡(以前にもまして、他人から孤立するようになったこと)
淡(日本代表を辞退したこと)
淡(破壊的なプレースタイルに変わったこと)
淡(そして、なにかをしようとしているらしいこと)
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/11/25(火) 02:57:22.86 ID:uIeEa6Mo0
淡(サキがなにを考えているのか、わたしにはすでにわかりません)
淡(でも、いいのです)
淡(わたしも、麻雀が大好きだよ)
カン