【白糸台SS】尭深「淡ちゃんと私」

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1 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:40:27 ID:wUFCX09g

淡「タカミ、私のお姉ちゃんになってよ」

淡ちゃんがそう言った日のことを、たぶん私はずっと忘れないと思う。
誰もいない、二人だけの茶道部室での夕暮れ。

2 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:41:07 ID:wUFCX09g

淡ちゃんと二人でいるようになったのがいつ頃からなのか、もう二人とも憶えていない。
家が近かった私たちは、物心ついた頃からいつも一緒にいたように思う。

学年が一つ違うから、たとえば私が小学校一年のとき淡ちゃんはまだ幼稚園だったはずで、
そういう年には、昼間の大部分は別々に過ごしていたと思うのだけど、
淡ちゃんが傍にいないときの記憶は、私にはあまり無い。
放課後や休みの日に、淡ちゃんと二人で遊んでいた記憶だけが残っている。

小学校では、淡ちゃんが入学してから私が卒業するまで五年間、
学校への行き帰りは毎日一緒だった。
朝、私が淡ちゃんの家に迎えに行き、一緒に登校。
お昼休みも一緒に二人で過ごす。その日午前中にあったことを二人で話す。
放課後も二人で一緒に帰って、どちらかの家で夜までずっと過ごす。

内向的な私と違って、淡ちゃんは昔からとってもアクティブだった。
なんでいつも私と一緒にいてくれるのか疑問に思ってしまうほど。
私もクラスに他の友達がいないわけじゃなかったけど、
淡ちゃんといるときが一番楽しくて、それでいて落ち着いてもいた。
たまに遠足や何かで一日離れていると、とても寂しかった。

淡ちゃんにとっての私も、同じだったらいいなあと思っていた。

3 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:41:38 ID:wUFCX09g

小学校では、淡ちゃんと一緒にいる時間が何よりも大事で、
だからクラブ活動とかはしていなかった。
学校にあるクラブのなかで二人で遊べそうなものというと、例えば麻雀があったけど、
あるとき麻雀クラブに見学に行くと、そこには人がとてもいっぱいいた。
こんなに大勢いるクラブだと、もし淡ちゃんと一緒に入っても、
二人でいられる時間は却って減ってしまいそうに思えたので、私は入る気にはならなかった。

淡ちゃんが入りたいと言えば考えたかも知れないけど、そんな言葉は一度も出なかった。
もちろん私からそんな話を振ることもなかった。
たまには、家族や他の友達などを交えて四人で麻雀をやることもあったが、
普段の私たちには、二人だけで打てるようにルールを調整した
二麻(ふたまー)だけで充分だった。

うちの学区は小学校と中学校がすぐ隣どうしだったので、
私が中学に上がっても、学校への行き帰りはやっぱり淡ちゃんと一緒だった。

中学では、私は茶道部に入った。小学校と違って、中学では部活が強制で、
最低でもどれか一つには入らないといけなかったからだ。
そこで、淡ちゃんと一緒になれそうな麻雀部にしなかった理由は、自分でもよくわからない。
麻雀部は忙しそうで、淡ちゃんといる時間が減りそうに思ったからかも知れないし、
あるいは単に、二年生以降のことなんて考えていなかっただけかも知れない。

4 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:42:07 ID:wUFCX09g

茶道部に入る人の動機というのは様々だけど、
部費でお茶菓子が食べられることに惹かれて、というのがやっぱり一番多い。
あとは、茶道そのものや、お茶や茶器に関心があるとか、
礼儀作法を身につけたいとか、他の部活は自分の予定と活動日が合わないとか、
幽霊部員でいても特に問題なさそうだとか、色々。

私の場合はもちろん、淡ちゃんに美味しいお茶を飲んでもらうこと。
茶道といえば一般的にはお抹茶のイメージだが、普通のお茶(煎茶)を扱う茶道もあるのだ。
普通こういう場合は、本当は料理部とかに入るのかも知れないけど、
料理は家庭科の授業でもやるけど茶道の授業はないから。

でも、同じ学年のBさんに「渋谷さんはなんで茶道部に入ったの?」って訊かれたとき、
「友達に美味しいお茶を飲んでもらおうと思って…」と答えて、淡ちゃんのことを簡単に説明すると、
Bさんはとても不思議そうな顔をした。

5 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:42:38 ID:wUFCX09g

B「その、淡ちゃん? っていう子は男の子なの?」

尭深「ううん、淡ちゃんは女の子だよ。男の子みたいにかっこいい時もあるけど…」

尭深「……どうして?」

B「…なんか、その子の話してる渋谷さんって、好きな子の話してるみたいに見えたから」
もちろん私は淡ちゃんのことが好き。
だけど、その子の言った意味での「好き」なのかどうかは、その時まで考えたことがなかった。
尭深「えっ、好きな子って……、えっ、えっと、そんな、だって……///」

尭深「淡ちゃんは女の子で、私も同じで…」
幸いにも、Bさんはそれ以上この話には突っ込んでこなかった。
今から考えると、彼女はきっと私に気を遣ってくれたんだなあと思う。
あんなにはっきりと動揺しているのを見たら、
もっと深い質問をしたくなる人もきっと多いだろう。

6 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:43:18 ID:wUFCX09g

六年生になった淡ちゃんは、私が茶道部でたまに遅くなるときにだけ、
小学校の麻雀クラブで時間を潰すことも何度かあったらしい。
でも、他の子が弱すぎるせいでつまらないとかで、すぐに行かなくなったそうだ。

その後は、私の部活が終わるまで校門で待っていたり、
やがて、待つのが面倒になったのか部室まで私を迎えに来たり、
いつの間にか、小学校の帰りの会が終わると中学校まで走ってきて、
そのまま一緒に茶道部に出るようになっていた。

幽霊部員を除くと、一年生から三年生まで合わせても十人に満たない小さな部活で、
規則らしい規則もない緩やかさだったから、
そこに小学生が一人混じっても何の問題もなかった。
淡ちゃんはお茶を点てるよりも飲んだり食べたりするほうが専門だったけれど。

そうして、淡ちゃんは中学に上がってもそのまま茶道部に入り、
私が卒業するまでの二年間は、また小学校の頃と同じように過ごした。

自分が淡ちゃんのことをどういうふうに好きなのか、はっきりとはわからなかったけど、
何となく、ちゃんと考えるのが怖くて、わからないままにしておいてしまっていた。

7 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:43:47 ID:wUFCX09g

淡「タカミって、高校はどこ行くの?」

尭深「まだ決めてないけど…たぶん白糸台高校」

淡「シライトダイ? どこそれ?」

尭深「府中市。ここからだと…電車で一時間くらい…?」

淡「えっ、一時間もかかるの?! 何でそんな遠いとこいくの? もっと近いとこにしなよー。
タカミは成績いいんだから、近いとこだって選びほーだいでしょ?」

尭深「えっとね、私の二つ上のC先輩っていたでしょ…? あの人が白糸台なんだけど、
白糸台は、茶道部専用のお茶室があるから来なさいって…」

淡「えー?? Cさんの言うことなんて聞かなくていいよー。遠いのやだー」

8 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:44:18 ID:wUFCX09g

C先輩にそう言われたこと自体は本当だ。
でも、そんな理由だけで高校を決めたりは普通しないし、先輩だってたぶん本気ではないだろう。

本当は、淡ちゃんと、少しだけ距離をおいてみようと思ったからだ。
自分がどういうふうに淡ちゃんのことを好きなのかわからなかったし、
淡ちゃんがどういうふうに私のことを思っているのかもわからなかったから。

「遠いのやだー」って言う淡ちゃんは、眼にうっすらと涙を浮かべていた。
まるで私ともう会えなくなってしまうみたいな顔をしていた。
学校がちょっと遠くなるだけで、引っ越すわけじゃないのに。
毎日二人でいる時間が、ちょっと減るだけなのに。

そのとき私がどんな顔をしていたのかは、もう憶えていない。
その何日か後に、両親にも、白糸台高校に行きたいと言った。
理由は進学実績がどうこうとか、適当な言い訳をしたけど、
お母さんは「そんなに遠いところに行っちゃって平気なの?」と、心配そうにしていた。
もしかしたらあれは「(淡ちゃんと離れちゃって)平気なの?」という意味だったのかも知れない。

淡ちゃんは、何度も考え直すように言ってきたが、
結局、私は本当に白糸台高校を受験し、無事に合格した。

9 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:44:47 ID:wUFCX09g

高校でも、私はやはり茶道部に入った。が、茶道部には件のC先輩ただ一人しかいなかった。
聞くと、二年生の部員はゼロ、三年生もC先輩だけ。
私は入学するまで知らなかったのだけど、白糸台高校は麻雀部が特に有名で、
そこを目当てに入学してくる生徒が多く、他の部活はあまり活発でないのだそうだ。
実際、C先輩も麻雀部との掛け持ちで、受験勉強もあり忙しいため
茶道部にはほとんど来られないという。

C「──というわけだから、ここは渋谷が自由に使っていいからね。あと部費も」

こんな開店休業状態な部活でも、僅かながら部費がちゃんと出るらしい。
これは要するに、私がお茶室の支配者…?
そんな部活だから、放課後いちいちお茶室に行く必要は無かったのだけど、
私は、だいたい毎日、最終下校時刻までずっとお茶室で過ごしていた。
部費で買った茶葉で一人で利き茶をしたり、宿題をしたり、本を読んだり…。

もちろん、淡ちゃんと距離をおくためだ。

この頃、私は自分で自分のことが怖くなっていた。

10 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:45:17 ID:wUFCX09g

淡ちゃんに会えるのは実質的に土日だけ。
平日あまり会えないからか、淡ちゃんが密着してくる率が以前よりも高くなっている気がする。
そして私も、それが全く不快ではない。
むしろ心地よい。快い。

というか自分から淡ちゃんを抱き締めてしまう。
淡ちゃん良い匂い。離したくない。
どう考えても私は淡ちゃんのことが大好きです(恋愛的な意味で)。
本当にありがとうございました。

淡ちゃんもそう思ってるのかはわからないけど。

11 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:45:48 ID:wUFCX09g

怖い。
私のこの気持ちが淡ちゃんに知られたらどうしようと思うと怖い。
淡ちゃんは私を親友としか思ってなくて、
関係が変わったり拒絶されたらと思うと怖い。

逆に淡ちゃんも私のことを恋愛的な意味で好きだとしたらそれもやっぱり怖い。
両思いだけどそれで問題が全て解決するわけじゃないって思うから怖い。

何度も一緒にお風呂に入ってお互いの身体を洗いっこしている私たちには
どっちかが実は男の子だったなんていう展開は絶対起こらないとわかっていることも怖い。
同性愛を描いた小説や漫画は数多くあるけれど、
実際に自分たちが同性愛カップルになるのはやっぱり怖い。

淡ちゃんはこの怖さについてどう思うのだろうと考えるのも怖い。
全然怖がってないのかも知れないと思うのも怖いし、
同じ怖さに震えているのだとしたらもっと怖い。
何も変わらないまま、何も解決しないまま一年が過ぎて、
淡ちゃんは白糸台に入学してきた。
12 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:46:20 ID:wUFCX09g

淡「へー、ここの茶道部ってタカミしかいないんだ」

尭深「三月まではC先輩がいたんだけどね…」

淡「じゃー今日からは、ここが私たちの愛の巣だね!」

淡ちゃんは当然のように茶道部に入部した。新一年生の入部希望者は他にいない。
新入生に配られる部活紹介の冊子では茶道部も一ページもらったけど、
素人さんには理解できない内容の薀蓄で埋め尽くしてしまった。
他に勧誘らしいことは何もしていないので、たぶん新入部員は淡ちゃんだけということになるだろう。

クラスの友達数人に幽霊部員になってもらっているので(先輩に教わった方法だ)、
このまま誰も入らなくても、私が卒業するまでは廃部になる心配はない。

二人だけの愛の巣。
その言葉に淡ちゃんがどれくらい本気なのか。
私はまだ量りかねていた。

13 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:46:57 ID:wUFCX09g

中学の頃の茶道部には、他にも何人か部員がいたけど、ここには私たち二人しかいない。

一応部活なので、最初のうちは毎日お点前をしていた。
亭主役を私と淡ちゃんとで交互に務め、互いにお茶を振舞う。
抹茶のこともあれば煎茶のこともある。

私が卒業してからは、淡ちゃんは茶道部にはほとんど行かなくなっていたらしいけど、
それでも、基本的なことはちゃんと憶えていた。
私が教えたことはみんな憶えててくれてるのかも知れない。

淡ちゃんは、茶筅を使うときに、髪の毛がふわっと舞い上がることが多い。
何かオーラでも出ているみたい。かわいい。

14 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:47:27 ID:wUFCX09g

四月の下旬頃には、お茶室でもお点前はせずに、
二人で宿題や他の遊びをしたりすることが多くなった。
部活っぽいことを毎日していたのは、実質的には二週間足らず…。

お茶室には何故か、お茶の道具だけでなく、
歴代の先輩方が置いていったのだろう様々な遊び道具があった。
トランプ、ウノ、将棋盤と駒、碁盤と碁石、花札、百人一首、麻雀マットと牌…。
二麻(ふたまー)も久しぶりにやった。やっぱり淡ちゃんは強い。

淡「ねータカミ、ここ自動卓はないの? 手積みめんどくさいー」

尭深「淡ちゃん、一応ここは茶道部だから…。麻雀部とかならあるかもしれないけど…」

淡「あー、麻雀部ってあったねー。あそこって人いっぱいいるんでしょ?
自動卓ひとつくらいもらってきてもわかんないんじゃない?」

尭深「あんな大きなもの、無くなったら絶対わかるよ…」

15 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:47:58 ID:wUFCX09g

そういえば、淡ちゃんは、クラスの友達とかの話を全然しない。
私から訊いても「うーん、まだあんまり…」みたいな気乗りしない様子。
白糸台は遠いので、私の学年には同じ中学から来た人は一人もいなかった。
最初のうちは友達がなかなかできなくて大変だったことを思い出す。
たぶん淡ちゃんも同じだろう。

でも、普通は、クラスだけじゃなくて、
部活でも友達がいるものなんじゃないだろうか。
二人だけの茶道部。これはとても心地いいことだけど、
もしも万一、淡ちゃんにクラスで友達が全然できなかったとしたら…。

やっぱり、茶道部以外も勧めたほうがいいのかな……。

16 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:48:27 ID:wUFCX09g

尭深「淡ちゃん、あのね…」

淡「何? タカミ」

尭深「麻雀部に見学に行ったら、自動卓で打たせてもらえるかも…」

淡「えー…? 私、部活は茶道部だけでいいよー…」

尭深「まだ、仮入部期間だから、見学だけで入らなくても大丈夫…。
四人打ちも、最近全然やってないし、たまにはいいんじゃないかな…?」

淡「んー…、じゃあタカミと一緒になら行く」
よし、成功。

17 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:48:59 ID:wUFCX09g

淡ちゃんは麻雀がとっても強い。
というか、淡ちゃんと打つと、自分の配牌が悪くなることがとても多い。
たぶん、いつか麻雀雑誌で見た“能力”っていうものが、淡ちゃんにもあるんだろう。
そのせいで、負けた人からイカサマ扱いされたりすることもあった。
淡ちゃんが麻雀のクラブや部活に入ろうとしなかったのには、そういう理由もある。

でも、ここの麻雀部は全国大会に何回も出ていたりして、すごく強いらしい。
当然、淡ちゃんだって簡単には勝てないだろうけど、
その代わりに、イカサマ扱いされたりすることもないだろう。

ちゃんと対等な相手として扱ってもらえれば、
淡ちゃんも麻雀部に入ってみる気になるかも知れないし、
そこに淡ちゃんと同じくらいの強さの子がいれば、
その子は淡ちゃんの新しい友達になれるかも知れない。

もちろん、これは淡ちゃんに茶道部以外の部活にも入ってもらって、
淡ちゃんの友達候補を増やすことが目的だから、
もし麻雀部が合わなさそうだったら、また別の部活に連れて行くだけだ。

18 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:49:28 ID:wUFCX09g

淡「わー、自動卓いっぱいあるよタカミ。なんか久しぶりに本気で打ちたくなってきたかも」

尭深「うん…。…えっと、誰に言えばいいのかな…」

??「あれ? 渋谷さん?」

名前を呼ばれて思わずそっちを見る。同じクラスのDさんがいた。

尭深「そっか、Dさん麻雀部だったっけ…」

D「そうだけど、何か用事? …そっちの子は何?」

尭深「あ、えっと…、この子は私の友達で一年生なんだけど、麻雀部を見学させてもらえないかなって…」

D「入部希望? 今から?」

尭深「うん」

D「その子は麻雀できるの? うちってレベル高いから、全然ルールわかんない人はたぶん入れないよ?」

淡「麻雀のルールくらい常識でしょ? 超よゆー」

尭深「ルールとかは大丈夫だから…」

D「もう新一年のチーム割りほとんど決まっちゃってるのに、今から入れていいのかなあ…?
一応部長に訊いてくるから待ってて」

Dさんが部室の奥のほうに向かっていく。あの髪の長い人が部長さんだろうか。

19 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:50:00 ID:wUFCX09g

淡「タカミ、私べつに麻雀部入るなんて言ってないよ?」

尭深「そう言わないと、打たせてもらえないかも知れないし…」

淡「んー、そっか。ま、「ここに私の敵はいないな!」とか言って入らなければいいだけだよね」

尭深「入らないからって、そんな失礼なこと言っちゃダメだよ…?」

なんて話しているうちに、髪の長い人がこっちにやってくる。

菫「Dが言っていた入部希望というのは君たちだな。三年で部長の弘世だ」

尭深「…えっと、二年三組の渋谷尭深といいます。こっちは…」 淡「一年一組の大星淡だよ」

菫「二年?」

尭深「あ、私はこの子の友達で付き添いで…」

菫「そうか。じゃあえーと、大星さんだな、君はとりあえず私について来るんだ。
付き添いの子はその辺の椅子で座って待っててくれ」

淡「えー、タカミと一緒に打つんじゃないとやだー」

20 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:50:38 ID:wUFCX09g

菫「一年生は君だけなんだろう? うちは二年生からの入部は受け付けてないんだ」

淡「やだ。タカミと一緒がいい」

菫「何なんだこの子は…。じゃあ、渋谷さんだっけか、君も卓の傍まで一緒について来なさい」

淡「タカミと打てないなら帰る」

菫「……ふぅ」

あ、先輩ため息ついた。というか、あからさまに面倒がってる…。
迷惑掛けちゃいけないし、諦めて他の部活を考えたほうが良いかな…。

そう思って、淡ちゃんに声を掛けようとしたときだった。

??「菫。私その子たちと打ってみたい」

どこかで見たことのある先輩が現れた。

21 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:51:08 ID:wUFCX09g

菫「照、お前またそんなに菓子ばかり買って…。
えっとな、一年なのはこっちの子だけで、そっちの子は二年だそうだ」

てる……そうだ、確か宮永照先輩だ。何かの大会で優勝したとかで校内新聞に出てた気がする。

照「二年生って入っちゃダメなの?」

菫「ああ。知らないのかお前」

照「でも、一年生が見学のときに、付き添ってきた子も一緒に打つくらい良いと思うけど。
それに、この子たちを帰らせたら、すごく勿体ないことになりそう」

菫「そうか…? まあ照がそこまで言うんだったら…。
じゃあ、二人ともこっちに来なさい」

尭深「すみません、なんかお手数お掛けして…」

淡「そっちのお菓子の先輩は優しいねー。ありがとー」

菫「何だ、まるで私が優しくないみたいじゃないか…」

22 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:51:39 ID:wUFCX09g

そうして、私、淡ちゃん、弘世先輩、宮永先輩の四人で卓を囲むことになった。
久しぶりの自動卓、久しぶりの四人打ちで、淡ちゃんはいつもよりテンションが高い。
眼が光って、髪もいつもより多くうねっている。海の生き物みたいでとてもかわいい。
弘世先輩はそれを見てうっとうしそうにしている。宮永先輩は無表情。

起家は淡ちゃんになった。
一度、小学校の麻雀クラブに見学に行って打ったとき、起家の淡ちゃんが何連荘もして、
東二局が来ないまま他の子のトビで終わったことを思い出す。
あのとき、トバされた子は泣いて、もう一人の子は淡ちゃんをイカサマ呼ばわりした。

今日は、確か何かで優勝した?先輩が相手なので、そこまでひどいことにはならないだろう。
というか、どうかそんなことにはならないでほしい。

私の配牌は六向聴。弘世先輩は配牌を見て思わず引いていたので、たぶん同じくらい悪いはず。
宮永先輩はポーカーフェイスっぽい感じでよくわからないけど…。
案の定、何巡もしないうちに淡ちゃんが弘世先輩からロンで和了った。
淡ちゃん、容赦ないなあ…。
――――と思った次の瞬間、背後に何かの気配がした。

23 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:52:08 ID:wUFCX09g

後ろに誰か、いや、何かがいる?
振り向く。
誰もいない。何もない。
少し離れたところで他の子たちが別の卓を囲んでいるだけ。

視線を卓に戻すと、淡ちゃんも後ろを見たり前を見たりしながら、首を傾げている。
いまの私と同じ何かを感じた…?
突然、私は、何故かすごく恥ずかしい気持ちになった。

私と淡ちゃんはお互いのことを、とっても細かいところまで知っているけど、
私は淡ちゃんに言っていないことがあるし、淡ちゃんの気持ちを100%知っているわけでもない。
でも、いま背中に感じた何かには、そういうことも全部見られた気がする。
先輩たちのどっちかの“能力”なんだろうか。

照「……仲いいんだ。いいなあ…」

宮永先輩が呟いた。

24 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:52:37 ID:wUFCX09g

宮永先輩の“照魔鏡”という能力のことや、
先輩に、遠くで暮らす妹さんがいることを知るのは、まだずっと後の話。
このときは、鏡で、私と淡ちゃんの雀力や能力だけじゃなくて、
私たちの仲がどれほどいいかも見えてしまって、それが羨ましくてつい呟いてしまった、
……というのも、後になってから聞いた話。

この対局のときには、ただ普通に、二本場の配牌をしながらこう言われただけだった。

照「二人とも、手加減とか手抜きとかしないで、全力で掛かってきて」

淡「えっ、先輩たちそんなこと言っていいのー? トバしちゃうよ?」

尭深「あ、淡ちゃん、そういうのは先輩たちに失礼だよ…」

照「もちろんトバしてもいい。私たちは、負けても変なことは絶対言わない」

尭深「えっ…?」

25 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:53:08 ID:wUFCX09g

照「あと菫、二年生からでも入部できるように何とかして」

菫「は? ……照、お前本気で言ってるのか?」

照「本気。明日、この二人と、EさんとFさんの四人で入れ替え戦をして、
勝った二人が新しい虎姫メンバー」

菫「…そうか。わかった。何とかする」

淡ちゃんを入部させてくれそう…なのはいいんだけど、
いつの間にか、付き添いのはずの私も入部することになっていた。
私が一緒じゃないと入部しない、って淡ちゃんが言うかもしれなかったから、
これは良いことだけど…。

先輩たちの口ぶりだと、私たちがとても強いみたいな言い方に聞こえる。
確かに淡ちゃんはとっても強いし、たぶん“能力”もあるんだろうけど、
私はそうじゃないって言ったほうがいいのかな…?
そもそも、まだ東一局なのにそんなことまでわかるの…?

照「渋谷さんは、この対局終わったらちょっと残ってて。説明するから」

尭深「説明…?」

照「それと、できたら明日は、あそこに置いてあるお菓子に合うお茶を持ってきて」

あ、もしかしてお茶要員…? なら納得。
……茶道部だっていうのはまだ話してない気がするけど。

26 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:53:39 ID:wUFCX09g

淡ちゃんが連荘できたのは二本場までで、その後は宮永先輩や弘世先輩も普通?に和了っていた。
淡ちゃんがダブリーしたのに宮永先輩が和了ったこともあった。

淡「えっ嘘? なんで私がダブリーしたのに先輩和了れるの? すっごいじゃん!!」

強い人と打てて淡ちゃんは楽しそうだ。連れてきてよかった。
結果は一位が宮永先輩、二位が弘世先輩、三位が淡ちゃん、四位が私。
淡ちゃんが麻雀で三位だなんて、たぶん初めて見たと思う。
対局が終わった後、私は宮永先輩から、私の“能力”の説明を聞いた。

尭深「各局の第一打で捨てた牌が、オーラスでの配牌になる…?」

正直言って、自分にそんな能力があるなんて、今まで全く知らなかった。
言われて思い返してみると、淡ちゃんと打ってて配牌がずっと悪いときでも、
オーラスだけはそれほど悪くもない、ということが時々あったような気はする。
淡ちゃんもオーラスになると能力が弱まるのかな、くらいにしか思っていなかった。

でも、これが本当だったら、うまくやればオーラスでは地和や天和も狙えることになるけど…。
そんな変なことってあるの…?

27 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:54:08 ID:wUFCX09g

その日は、他の部員の人とも何局か打った。
途中から淡ちゃんと私が別々の卓になったりもしたけど、
淡ちゃんはもう、私とじゃなきゃダメ、みたいなことは言わなかった。

淡ちゃんはほとんどの対局で一位だったみたい。
圧倒的な差で勝ってもイカサマ扱いされない、というだけで既に充分楽しめてるのが、
他の卓で打っている私にも伝わってきた。

そして私も、宮永先輩に説明された能力が本当にあることを、自分で確認した。
地和や天和なんて、生きてるうちにできるかどうかすら普通はわからないのに、
今日は二回も地和ができたし、それ以外でも高い手で和了れることが多かった。
先輩いわく、この能力が無くても、私の雀力は一軍レベル?らしい。
淡ちゃんとずっと打ってたおかげ…?

さっき取り次いでくれたクラスメートのDさんと打ったとき、
「渋谷さん、なんでこんな強いのに今までうちに入らなかったの…」って
ちょっと茫然としていたのが印象に残っている。

28 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:54:37 ID:wUFCX09g

次の日、私と淡ちゃんは正式に麻雀部に入部した。

昨日、二年生の入部を受け付けていないと言ったのは、
規則とかではなく単に監督さんの方針だったそうで、
宮永先輩と弘世先輩が監督さんに私たちのことを説明して、認めてもらったそうだ。

淡ちゃんの友達づくり、とかを考えたら、
本当は私は一緒に入るべきではなかったのかも知れないとも思うけど、
先輩方がそんなことまでして下さったのに、今更やめるわけにはいかない。

宮永先輩にお茶を頼まれていたので、私は昼休みのうちにお茶室で用意をして
電気魔法瓶で保温しておき、それを放課後に麻雀部に持っていった。とても好評だった。
淡ちゃんに飲んでもらうのも嬉しいけど、他の人に飲んで喜んでもらうのも嬉しいんだな、って、
今まで長いあいだ忘れていたのかもしれないことに気付いた。

29 :むい~ん 2014/06/01(日) 01:55:08 ID:wUFCX09g

その後は、「チーム虎姫」の入れ替え戦。
ここの麻雀部は部内でいくつも「チーム○○」というのがあって、
チームごとの対抗戦をしたりするらしい。
チームというのは三年生の先輩が自由に編成してよく、「チーム虎姫」は宮永先輩が中心のチーム。
宮永先輩、弘世先輩が三年で、あとは私と同じ二年生の亦野さん、Eさん、Fさん、で五人。
今日は、淡ちゃん、私、Eさん、Fさんの四人で半荘一回を戦って、
それで上位二名が新しい虎姫のメンバー、下位二名はチームから外れる、ということになる。

淡「よーするに、私とタカミが一位二位のときに、そっちの二人をどっちかトバせばいいってこと?」

照「うん」

そして実際、その通りになった。
EさんとFさんはもちろん一年生の頃から麻雀部。
なのに、昨日入ったばかりの私たちがチームから追い出してしまったわけで、
何だか申し訳ない気持ちになる。
「こいつお茶汲み係じゃなかったのかよ…」とも言われた。
ごめんなさい。私もお茶の係か淡ちゃんのおまけだとばかり思ってました。

30 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:05:30 ID:wUFCX09g
麻雀部の平日のお休みは週に一日、水曜日だけで、それ以外は毎日部活がある。
土日や祝日も、他校との練習試合があったりして、丸一日休める日はあまりない。
私たちは急に忙しくなってしまった。
でも、忙しくても、淡ちゃんとは同じ部活の同じチームだから、やっぱり毎日一緒だ。

いつの間にか、淡ちゃんは宮永先輩と仲良くなっていた。下の名前で「テルー」なんて呼んでいる。
私以外だと、宮永先輩に一番懐いているように見える。
超有名人の先輩(調べるまでそうだとは知らなかった)を名前で呼び捨てしていいのかな、
とも思うけど、先輩はあまりそういうことは気にしないみたいだ。
淡ちゃんの友達を増やそう、という最初のもくろみは、ひとまずうまくいったらしい。

水曜日も、麻雀部では部室で自主練している人が多いみたいだけど、
私たちは、水曜日は茶道部の日ということにした。
週一回くらいはお茶室の掃除もしたいし、茶器も使ってあげないとかわいそう
……というのは表向きの理由。

淡ちゃんと二人だけの時間にしたいからそうしてしまった、というのは、自分でもわかっていた。

31 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:06:00 ID:wUFCX09g

お掃除して、お茶を点てて、
二人で並んで座って、淡ちゃんの宿題を見てあげたり、
二人で一緒の本を読んだり、トランプとかで遊んだり、ただ二人でぼーっとしたりする。
肩と肩が、腕と腕が触れる。密着する。字を書くときちょっと動きづらいけど。

勉強していると、淡ちゃんが眠気を訴えたりもする。

淡「眠くなってきたー…」

尭深「…じゃあ、休憩して、ちょっとお昼寝する…?」

淡「うん……zzz」

頷きながら淡ちゃんは私を抱きしめる。まるで抱き枕みたいに。
私も抱き返す。淡ちゃんは私の胸に顔をうずめる。
そのまま二人して畳に倒れて、淡ちゃんは眠りにつく。
私は淡ちゃんに頬ずりをする。匂いを嗅ぐ。いつも淡ちゃんはいい匂い。
淡ちゃんの髪の毛は眠っていても動くことがある。かわいい。
私はそれを撫でる。くすぐったい。気持ちいい。

麻雀部でも、淡ちゃんは私にくっついてきたり、お昼寝したりすることもあるけど、
私が恥ずかしがるからか、ここまでべったりとはして来ない。
というか、毎日こんなにくっついてたら、引き返せなくなってしまいそう。
そういう意味でも、やっぱり麻雀部に入って良かった。
引き返せなくなっても別に問題なくない?

と、私の中で誰かが囁く。

32 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:06:30 ID:wUFCX09g

一度だけ、水曜日に虎姫の三人をお茶室に招いたことがある。

淡「ここが私とタカミの愛の巣だよ。テルーいいでしょー?」

尭深「あ、愛のって、そんな、みんなの前で…///」

照「愛の巣…いいなあ。私も咲と…」

弘世先輩と誠子ちゃんは特に何も言わず流していたけど、宮永先輩は本気で羨ましがっていた。
宮永先輩が持ってきてくれたお菓子と、私が点てたお抹茶で、くつろぎのひととき。

照「愛の巣…愛の巣…」ブツブツ

いやそんなに何回も繰り返さなくても。

宮永先輩の“鏡”が、麻雀の対局中限定の能力で良かった。
このお茶室での私たちを全て見られてしまったら、とても恥ずかしい。
それに、宮永先輩はそれでも羨ましがるだけかも知れないし、淡ちゃんも気にしないと思うけど、
弘世先輩や誠子ちゃんはたぶん引く。
どう見たって、仲の良い親友とか幼馴染とかいうレベルは超えているだろうからだ。

33 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:07:00 ID:wUFCX09g

もうちょっと超えてみない?

と、私の中で誰かが囁く。
言葉で確認してみない?

もっと超えられるかもよ?

好きなんでしょ?

私もタカミのことが大好きだよ?
って言うと思った?

34 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:07:31 ID:wUFCX09g

六月。
部活内のチーム対抗戦で優勝したので、
私たちの「チーム虎姫」は、インターハイの地区大会に出ることになった。

優勝した後で調べるまでよく知らなかったのだけど、これはどうも大ごとらしい。
まずインターハイというのがそもそも、運動系の部活の大会と同じで、
全国の高校麻雀部の頂点を決めるような大会だそうなのだ。
つまり、どの高校の麻雀部が一番強いのか、ということ。

で、その大会で、去年と一昨年は白糸台が全国優勝している。
出場したのは二年間とも宮永先輩のいるチームで、
今年は先輩の、そして白糸台の、三連覇がかかっている。

そんな大会に、何十人もの部員のなかから五人だけの代表として、
四月に入部したばかりの淡ちゃんと私が出る。

茶道部でも大会はあるけれど、それはどちらかというと交流会的なもので、
どの茶道部が一番優れているかなんていちいち決めたりしない。
……あ、闘茶(利き茶の競技)大会は、成績で順位が一応つくんだった。
でも、闘茶は競技人口自体が麻雀とは比べられないほど少ないし、真剣みもそんなにはない。

これはもしかして、責任はかなり重大なのでは…。

35 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:08:00 ID:wUFCX09g

なんて思い悩んでいるうちに、地区大会。
淡ちゃんの能力はわかっていても防げないけど、私の能力は牌譜をよく見ればわかることだから、
流局や連荘を少なくできる能力の人がいたりしたら、簡単に流されちゃうんじゃ…。

…って心配したけど、全然そんなことはなかった。
こんな変な能力で役満和了回数の地区新記録出しちゃってごめんなさい。本当に恥ずかしい。
そもそもテレビに映るのも恥ずかしい。麻雀の番組は視聴率も良いらしいし。

対局室にお茶や湯呑みを持ち込めるのは本当に助かる。
おかげで、お茶を飲んで落ち着くことができる。
湯呑みを持っていないと手持ち無沙汰になって、きっと私は挙動不審になってしまうだろう。
そんな姿を淡ちゃんには見せたくなかった。

36 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:08:31 ID:wUFCX09g

結果的に、私たちのチームは地区大会で無事優勝することができた。
淡ちゃんは、事前に弘世先輩に、ダブリーはなるべく使わないようにと言われていたけど、
決勝では、点差が充分あったのに、何故か一度使っていた。
あとで訊いたら、私に総合獲得点で負けたくなかったかららしい。

そうだね。私と打つと、今までほとんど淡ちゃんが勝ってたから、負けたくないよね。

淡「私がタカミに勝てるのって麻雀くらいしかないしー」

そんなことないよ?
だって淡ちゃんはかわいいもの。
全国大会でテレビに出て、淡ちゃんのファンが増えちゃったりしたらどうしよう?

淡「ねー、インハイのテレビ中継って無しにできないの?」

菫「…お前は何を言っているんだ。出場校の一存でできるわけがないだろう。
テレビに出るのはイヤなのか?」

淡「んー、私が出るのは別にいいけど、タカミが出るのはなんかヤダ」

照「…どうして?」

淡「だって、タカミのファンが増えちゃったら困るし」
同じこと考えてた。

やっぱり、何とかして中継を妨害しないと…。

37 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:09:00 ID:wUFCX09g

七月に入ると、部活ではミーティングとして、全国の出場校の対戦相手について
様々に分析したり対策を話し合ったりすることが多くなった。

その中で、特に淡ちゃんが強く反応したのは、福岡の高校の話をしていた時だ。

福岡県の新道寺女子高校には白水さんと鶴田さんという選手がいて、
二人の和了りはリンクしているのだという。
宮永先輩が春の大会で鏡を使って、いろいろ細かく見破ったらしい。

淡「そのシローズとツルタ?っていうのは、ラブラブなの?」

照「ラブラブ…かどうかは微妙なところだけど、絆が強い感じはした」

淡「私とタカミもそういうのできると思う?」

尭深「」ゴフッ

びっくりしてお茶を噴いてしまった。
な、何を訊いてるの淡ちゃん…。

照「たぶん、絆が強いからってできるとは限らないと思う。
白水さんたちよりもっとラブラブな人でも、そういうリンクみたいなのは滅多にないし」

淡「ふーん…」

38 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:09:31 ID:wUFCX09g

その日は、福岡県大会や、去年のインハイで新道寺が出ている対局とかの動画も見た。

インハイで決勝まで届かず負けた新道寺。
控え室で鶴田さんが泣いているのを、白水さんが抱き締めて慰めている。
新道寺の他のチームメンバーに比べると、確かに一際仲がいい感じ。
誠子「何なんですかこいつら…。カメラの前でこんな堂々と…」

菫「そうだな…。これ本当にテレビで放送したのか? こんなわいせつ動画を…」

尭深「…………」ズズッ

私はお茶を啜りながら、湯呑みで表情を少しでも誤魔化そうとする。
画面の中では、白水さんが鶴田さんの服の中に手を入れて……。

39 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:10:00 ID:wUFCX09g

女の子どうしだとどうやるのかって、小説や漫画での知識は少しはあったけれど、
それを映像で見るのは初めてだった。
あんなふうになるんだ…。
照「咲…。泣いてる咲をこうやって慰めてあげたい…」

淡「ねー、あれって何か気持ちよさそうじゃない? タカミ、私にもあれやって?」

尭深「」ゴフッ

またお茶を噴いてしまった。
え、えっと……あれを? 私が? 淡ちゃんに?
画面では鶴田さんがビクンビクンってなっている。
確かに、カメラの前であんなことをするのは恥ずかしいしイヤだけど…、
…でも、……
40 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:10:30 ID:wUFCX09g
次の水曜日。
私たちはお茶室で、中から鍵をかけて、
二人きりで、白水さんたちの真似をした。

抱き合って眠ることはよくあるし、時々お風呂で身体の洗いっこもしてるけど、
お互いの身体をこんなふうに触りあったことは、実は一度もなかった。
とても気持ちよかった。

もう引き返せないと思った。

41 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:11:00 ID:wUFCX09g

iPS法のことがニュースに出たのは、そんな頃だった。
人工多能性幹細胞の運用に関する法律――通称iPS法。
iPS細胞のおかげで、今までになかった形の家族関係が現れ始め、
既存の法律では対応しきれなくなったために、新たに作られた法律。

わかりやすいところだと、例えば養子縁組をした親子の場合、
iPS委員会が定める手術を行い、役所にその届出をすることによって、
養子から実子になれるのだという。
「血の繋がりの無い親子」が「血の繋がりのある親子」になるわけだ。

そしてこれは、親子の場合以外にも、考えうる様々な家族関係に適用される。
もちろん兄弟関係や姉妹関係にも。

42 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:11:30 ID:wUFCX09g

法律の条文やその解説記事などを読み漁った私は、これは「同性での結婚」と同じだと思った。

姉妹関係は、両者の合意のみに基いて成立し、姉妹が同等の権利を有することを基本として、
相互の協力により、維持されなければならない。

ここはそのまま、憲法での「婚姻」の条文の引き写し。
他にも、今までの制度での結婚を思わせるところがいくつかある。

・姉妹関係が結べるのは双方が十六歳以上である場合のみ。
(ちなみに、男性どうしの兄弟関係は十八歳以上。)
・一姉一妹制。この法律に基づく姉妹関係を結べる相手は一人につき一人のみ。
・姉妹関係となった二名は両者とも、男性との婚姻も制限される。
etc…

おまけに、姉妹間に子どもができた場合のことまでちゃんと書かれている。
男女の夫婦と同じで、ひとつの世帯を持てたりもするらしい。

一方、あくまでも「婚姻関係」ではなく「姉妹関係」だからか、離婚に相当するような規定はない。
血を分けた姉妹であっても、様々な理由で一緒に暮らせなくなることは当然あるけど、
だからといって姉妹でなくなるわけではないからだろう。まさに宮永先輩たちのように。
これは本来は、姻戚関係などで義理の姉妹になった人たちのためのものなんじゃないかとも思う。

43 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:12:01 ID:wUFCX09g
要するに、世界が私に問うているわけだ。

「淡ちゃんと姉妹になる?」と。

「ずっと一緒に暮らす?」と。

「あなたは、病めるときも、健やかなるときも、大星淡を一生愛し続けると誓いますか?」と。
難題だった。

44 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:12:30 ID:wUFCX09g

淡ちゃんはニュースとかはあんまり見ないから、
iPS法のことは、自分のなかで考えがまとまってから話そう…。

そう思ったまま数日が過ぎて、また水曜日。放課後のお茶室。
淡ちゃんが「タカミ、これって知ってる?」と、スマホの画面を見せてきた。

iPS法の姉妹関係についての解説記事だった。
尭深「うん…。何日か前に読んだよ」

淡「なーんだ、もう知ってたんだ。私、今日クラスの子に聞くまで知らなかったよ」

あ、クラスにお友達できたんだ。初めて聞いたかも。

淡「じゃあ、知ってるなら話は早いよね」

尭深「…?」

淡「タカミ、私のお姉ちゃんになってよ」

45 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:13:01 ID:wUFCX09g
ああ…先に言われてしまった。

どうしよう。

まだ考えがまとまってないのに。

考える必要なんてある?

淡ちゃんが他の子と姉妹になっちゃってもいいの?

よくない。

私が淡ちゃん以外と姉妹になる可能性なんてあるの?

ない。

世界で一番大切なものは?

淡ちゃん。
っていうか、淡ちゃんのことを「もの」なんて言っちゃダメ。
じゃあ、何を思い悩んでるの?
46 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:13:30 ID:wUFCX09g
私の脳内で、今までの過去が全部、走馬灯のように駆け巡った。

そうして、悩むことなんて何もないことに気付いた。

ただ、自分から淡ちゃんに告白して、もしも、もしも万が一断られたらどうしよう、と、
ほんの少し、不安があっただけだ。
いま、淡ちゃんは、私に「お姉ちゃんになってよ」って言ってくれた。
もう、こんな不安を抱く理由は何もない。
47 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:14:01 ID:wUFCX09g
それでも、私は確認せずにはいられない。
尭深「…淡ちゃん、私のこと好きなの…?」

淡「好き。大好き。…前からずーっと言ってるじゃん」

尭深「…………」
言葉が出なくなってしまう。
嬉しくて。
ずっと、いつも、淡ちゃんは本気だったんだ。
48 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:14:30 ID:wUFCX09g
私が黙ってしまったからか、淡ちゃんは
不意に、いつもの笑顔を消して、不安そうな表情になった。

淡「タカミ……、もしかして、私が妹じゃイヤ?」

私は淡ちゃんを引き寄せて抱き締める。

そうだよね。淡ちゃんだってきっと、同じ不安を抱えていたはず。
だったら、私は淡ちゃんの姉として、その不安を解消してあげないといけない。

尭深「ううん…。急だったから、ちょっとびっくりしただけ…」

そっか。今まで私は、ちゃんと言葉にしてこれを言ったことが、無かったと思う。
それじゃあ、なおさら淡ちゃんは不安だっただろう。

ちゃんと、言葉にしよう。
49 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:15:00 ID:wUFCX09g

尭深「私も淡ちゃんのことが好き…」
尭深「だから、淡ちゃん、私の妹になってくれる…?」
淡「……うん」

そのまま、私たちはずっと、お互いに抱き締めあっていた。
50 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:15:31 ID:wUFCX09g

淡「……じゃあさ、タカミお姉ちゃん」

尭深「……なあに? 淡ちゃん」

淡「姉妹になるお祝いに、この間みたいにまた気持ちよくして?」

尭深「えっ…」
二週連続でお茶室でしてしまった。

学校でしていて他の人に見られたら恥ずかしいから、
次にするときは、ちゃんとした場所に行こうと思った。

51 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:16:02 ID:wUFCX09g

私たちは未成年なので、実際にiPS法での姉妹になるためには親権者の許可が要る。
でも、うちの両親も、淡ちゃんのご両親も、あっさりと認めてくれた。
どうも、iPS法のニュースが出た時点で、こうなることを見越して、
親どうしで予め話し合いが持たれていたらしい。
お父さんにだけは、本当に淡ちゃんでいいのかと何度も念を押されたけれど、
それでも反対はされなかった。

ただ、淡ちゃんと私の二人だけで白糸台の寮に住む、という案もあったのだけど、
これは淡ちゃんのお母さんに却下された。
「尭深ちゃん一人が淡の面倒を見るんじゃ、尭深ちゃんに負担がかかりすぎるから、
最低でも二人とも高校を卒業するまではダメ」なんだそうだ。
なので、私たちは今、私が淡ちゃんの家に居候するような形で暮らしている。

iPS法での姉妹になるための手術、というのもした。
技術的な細かい説明はよくわからなかったけど、
お互いの遺伝子を“姉妹でしかあり得ないように”するものだということだった。
そうすると、今は外見のあまり似ていない私たちも、
これから少しずつ似てきたりするのだろうか。

区役所に届け出もした。
港区でiPS法での姉妹になるのは私たちが初めてだそうで、新聞やテレビの取材が来てしまった。
ちょっと恥ずかしいけど、でももう、テレビに出ることでお互いのファンが増えてしまうのを
そんなに心配することはない。
私と淡ちゃんは姉妹で、姉妹の絆は誰にも引き裂けないのだから。

52 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:16:31 ID:wUFCX09g

テレビのニュースは東京じゅうに流れてしまったらしく、
その翌日学校に行くと、クラスや麻雀部では質問攻めになった。
同性婚みたいなものだということで、引いている人も少しはいたが、
ほとんどの人は、みんな私たちに好意的だった。
女の子どうしでカップルになったら、社会的にどうなるのかということを
心配したこともあったけど、どうもそれは、考えすぎだったみたいだ。
ちなみに、宮永先輩はこの頃、たまたま麻雀雑誌のお仕事で何日か海外に行っていたため、
私たちがiPS法での姉妹になったことだけでなく、そもそもiPS法の存在自体を知らなかったらしい。
しばらく後に、iPS法のことを知った宮永先輩が、妹さんを愛するあまり一騒動起こすのだけど、
それはまた別の話。

53 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:17:00 ID:wUFCX09g

淡「…ねえ、タカミ?」

尭深「何? 淡ちゃん」

淡「私、すっごい重大なことに気付いたんだけど…」

尭深「重大なこと…?」

淡「今朝って、おはようのちゅーしてないよね?」

尭深「……うん。そういえば、してる暇なかったね…。じゃあ後で…」

淡「今してもいい?」

尭深「えっ…」

今はインターハイ全国大会、準決勝前の記者会見中。
主にインタビューを受けているのは宮永先輩と弘世先輩だけど、
私たちもチームメンバーとして袖のほうに控えている。

54 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:17:31 ID:wUFCX09g

尭深「えっと、今はちょっと、人目もあるし…//」

淡「大丈夫。みんなテルーたちのほう見てるから」
淡ちゃんが私の眼鏡を外して唇を奪っている様子は、
見事に写真に撮られ、麻雀雑誌に載ってしまい、
これがきっかけで、高校麻雀界にiPS法での姉妹関係が増えることにもなるのだけれど、
それもまた別の話。

私たちは今日も、姉妹仲良く暮らしている。

─Fin─

55 :むい~ん 2014/06/01(日) 02:18:07 ID:wUFCX09g

おしまいです。
お読み頂きまして有難うございました。

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/6471/1399435629/6n-
本稿の作成にあたっては、リレーSSスレから多くの示唆を得ました。
リレー参加者各位に深く御礼申し上げます。

56 :むい~ん 2014/06/01(日) 11:48:55 ID:DO9a6zlc

乙乙

57 :むい~ん 2014/06/01(日) 21:42:12 ID:fjXvkBlg


次回作期待していいの?
58 :1 2014/06/08(日) 05:27:03 ID:VOxSxgUQ

──────────────────────────

タイトル:

尭深(弘世先輩のおっぱいで抹茶ミルク…)

──────────────────────────

59 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:27:46 ID:VOxSxgUQ

─白糸台高校 茶室─

尭深(弘世先輩のおっぱいで抹茶ミルク…)

尭深(頼まれたから一応作ってはみたけど…こんなことしていいのかな…?)

ガラッ

菫「尭深、できたか」

尭深「あっ、はい。このポットに…」スッ

菫「ありがとう。ちなみに、これは何日くらいもつんだ?」

尭深「日持ちですか…? 元が、その、ぼny……、えっと、常温だと三~四時間くらい…」

菫「三~四時間? それじゃ奈良まで持っていけないじゃないか」

尭深「奈良…?」

菫「いや、何でもない。何とかならないのか」

尭深「冷凍すれば二週間くらいはもつと聞いたことが…」

菫「冷凍か。…仕方ない、そうするか」

尭深(奈良って、やっぱり、松実宥さんに飲ませるのかな…。あっちに先に警告すべき…?)

尭深(味見はしたけど、冷凍するとどうなるのかもわからないし…)

61 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:28:20 ID:VOxSxgUQ

菫「…尭深、ひょっとして母乳にはあまり詳しくないのか?
淡に飲ませたりしてるんだろうと思ったが」

尭深「えっ、あの、そんなことは…」

淡「おっぱいってさー、普通はおっぱいから直接飲むものなんじゃないの?
タカミの時々飲むけど、日持ちなんて気にしたことないよ?」

菫「なるほど、それもそうか…」

尭深「あ、淡ちゃん…///」

淡「だいたい、おっぱいで抹茶ミルク作るって、それ美味しいの?」

尭深「一応、飲める味にはしたけど…、
私も、たぶん、別々に飲んだほうが美味しいと思う…」

淡「だよね。しかもそれ、阿知賀のマフラーの人に飲ませるんでしょ?」

菫「!? ……な、何故それを知っている…」

淡「カマかけただけー」フフン

菫「ぐっ……」

62 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:28:50 ID:VOxSxgUQ

淡「あんな寒がりの人が、冷えた抹茶ミルクなんて飲むの?
どうしてもおっぱい飲ませたいんだったら、
直接あったかいのをあげたほうがいいんじゃない?」

菫「……し、しかし、私と宥は別にまだそういう関係じゃ…」

淡「そうなの? なら、なんで飲ませようとしてんの?」

尭深「あ、淡ちゃん、あんまり先輩いじめちゃ…」

ガラッ

照「おまじない」

淡「あ、テルーおかえり。お菓子お菓子」

尭深「先輩、買い出しお願いしちゃってすいません…」

照「大丈夫。お菓子は自分で買いに行きたかったから」

淡「…で、おまじないって何?」

照「恋愛成就のおまじない。自分の母乳を想い人に飲ませると両思いになれるって、
先月の『月刊iPS』に書いてあった。本人に内緒でお茶とかに混ぜてもいい」

菫「照も読んでたのか…」

63 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:29:20 ID:VOxSxgUQ

淡「テルーもそれやってみたの?」

照「うん。この間、ジュースに混ぜて冷凍して、宅急便で咲に送った。結果が楽しみ」

尭深(あの妹さんなら、母乳だってわからなくても、
先輩から送られてきたっていうだけですぐ捨てそうだけど…)

淡「ふーん。で、スミレもマフラーの人に同じおまじないやるんだ」

菫「……ああ、その通りだ。今度の土日に、松実館に泊まりに行く」

尭深「…あの、直接会うんだったら、こんなことしなくても、普通にこ、告白したほうが…」

淡「そーだよね。恋人とかじゃないにしても、もう結構仲いいんでしょ?
奈良のおみやげ何回ももらったもんね」

菫「告白か…。それはそうなんだが…」

菫「その、何というか、怖くてな…」

64 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:29:50 ID:VOxSxgUQ

淡「振られるのが怖いってこと?」

菫「いや、振られるというより、対局のときのようにあっさりと躱されそうで…」

淡「つまり、振られるのが怖いんじゃん」

菫「…………」

淡「『先輩』はさー、『後輩』のお手本になるもんなんじゃないの?
まー私とタカミはもう姉妹だけど、くっついてない後輩ってまだいっぱいいるでしょ?」

淡「ちゃんと告白して、後輩のお手本になってよ。スミレ『先輩』」

菫「お前、こんな時だけ先輩呼ばわりか…」
照「……うん。やっぱり私も咲に直接告白しに…」

尭深「また迷子になったら大変なのでやめて下さい…」

65 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:30:21 ID:VOxSxgUQ

菫「……いや、でもそうだな。確かに淡の言うとおりだ」

菫「決めたぞ。私は今度の土曜に、宥に告白する」

菫「それでもし躱されても、その時はその時だ」
淡「うん。やっぱシャープシューターはどんどん射ってかないとね!」

照「さすが菫。頑張って。応援してる」

菫「ああ。ありがとう」
尭深「…えっと、じゃあこの抹茶ミルクは処分しちゃっても…」

菫「いや、それも一応持って行く」

淡「結局持ってくんだ…」

66 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:30:50 ID:VOxSxgUQ

─そして土曜日、駅から松実館へと向かう道─

菫(もうここを歩くのも何度目だろう…)

菫(いや、ひょっとしたら私は、ここに住むことになるのかも知れない)

菫(もし宥が私を受け容れてくれて、恋人に、そして姉妹になっても、
宥はきっと松実館を継ぐのだろうし、そうでなくても吉野から離れたくはないだろう)

菫(ならば、家業など特にない私がこっちに来るべきだ)

菫(となると、やはり大学は奈良女子だろうか。そういえば宥はどこの大学に行くんだ?)

菫(いや、仕事に関係する専門学校か何かかも知れない。
そうか、三年生どうしなのに、進路の話を今まであまりしていなかったな)

菫(そのあたりのことも、ちゃんと一度話し合わなくては…)

菫(……っと、先走ってしまったか。まず何よりも、今日は宥に告白することだ)
菫(…見えてきた。松実館)

菫(…ん? 玄関先で掃除してるのは誰だ? 見たことない人だな)

菫(新しく人を雇える余裕なんてあったのか…?)

67 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:31:21 ID:VOxSxgUQ

菫「すみません」

??「はいっ! お泊まりでしょうか?」

菫「予約していた弘世と言いますが… (おや? やっぱりどこかで見たか?)」

??「…あっ! 白糸台の弘世さん! お久しぶりです。宥ちゃんから聞いてますよ」

菫「…? 失礼ですが、どこかでお会い…」

ガラガラガラッ

宥「あっ、菫ちゃん、いらっしゃい」

菫「久しぶりだな宥。また厄介になるよ。…ところで、こちらの方は新しい従業員さんか?」

宥「えっ、菫ちゃん、もしかして誓子ちゃんのこと憶えてないの…?」

菫「ちかこ…? ……あっ、有珠山の次鋒か? 確か桧森とか言ったか」

誓子「はい。インハイ決勝ではお世話になりました」

菫「そうか。いや、こちらこそすぐ気付かなくて済まなかった」

68 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:32:00 ID:VOxSxgUQ

菫「……ん? なぜ桧森はここで法被を着て掃除しているんだ?
宥はいつも、私には客だからと言って何も手伝わせてくれないのに…」

宥「えっとね、菫ちゃん。誓子ちゃんはお客さんじゃないの」

菫「客じゃない?」

誓子「あと、今はもう桧森じゃなくて、松実誓子といいます」

菫「まつ…み…?」

宥「菫ちゃんには、誓子ちゃんの話は全然してなかったんだっけ…?
長くなるかもしれないから、先にお部屋にご案内しちゃうね」

菫「あ、ああ…」

69 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:32:30 ID:VOxSxgUQ

─客室─

宥「誓子ちゃんも、菫ちゃんと同じで、インハイのときに仲良くなって、
その縁で、夏休みの後半はずっとお手伝いに来てもらってたの」

宥「誓子ちゃんのご実家は、洞爺湖温泉っていうところで旅館をやってて、
もちろん誓子ちゃん本人もお仕事の経験があったから、即戦力になってくれてとっても助かった」

宥「それでね、そのご実家は兄弟が多くて、誰が継ぐかとかで結構もめてるみたいなのね」

宥「誓子ちゃんは、そういう争ったりするのはイヤで、でも旅館とかホテルでお仕事したいとは思ってて」

宥「だから、夏休みが終わっても、卒業しても、ここでずっと働きたいって言ってくれたの」

菫「……なるほど。それで、わざわざ北海道から今日も手伝いに来てるのか」

宥「ううん。今はもう私たちと一緒に住んでるんだよ」

菫「す、住んで…? 学校はどうしてるんだ? まだ卒業してないんだろう?」

宥「有珠山高校は二期制の単位制で、九月までで必要な単位は全部取っちゃったから、
もう後は卒業式だけ行けばいいんだって。
引っ越しの費用とかは、ご実家で出してくれたみたい」

菫「」

70 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:33:00 ID:VOxSxgUQ

宥「…菫ちゃん、どうしたの?」

菫「……ああ、すまん。ちょっと脳の処理が追いつかなくてな」

菫「あいつがここで働いてる理由はわかったが、さっき「松実」と名乗ったのは何なんだ…?」

宥「えっとね、誓子ちゃんが私のお姉ちゃんになったの」

菫「」

宥「白糸台にも、確かiPS法で姉妹になった人いるんだよね? その人たちと同じだよ」

菫「…………な、何故……」

宥「最初は、普通に住み込みで働くだけっていう話だったんだけど、
何か税金のこととかで、姉妹になったほうが良いって言われたから」

菫「言われたって、誰に…?」

宥「玄ちゃんと、誓子ちゃん。あと、お父さんもそれでいいって」

菫「iPS姉妹になると…確か男とも結婚できなくなるんじゃないのか?
宥はそれでいいのか? 跡継ぎとか…」

宥「今は、女の子どうしでも子どもが作れるから、大丈夫。それにね…」

71 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:33:30 ID:VOxSxgUQ

菫「…それに?」

宥「…その……、誓子ちゃんって、とってもあったかくて、
ずっと一緒にいてもいいかなって思ったから…」

菫「」

宥「……菫ちゃん?」

バタッ

宥「す、菫ちゃん? えっ、倒れ…、す、菫ちゃん? 大丈夫?」ユサユサ

ガラッ

誓子「宥ちゃん、何かあったの? すごい音したけど…」

宥「ち、誓子ちゃん! 救急車とAED!!!!」

―終―

72 :むい~ん 2014/06/08(日) 05:34:00 ID:VOxSxgUQ

以上。お読み頂きまして有難うございました。
余韻ぶち壊しじゃねえかと思われた方がいらっしゃるかも知れません。ごめんなさい。

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/6471/1355146512/101
> 101 名前:むい~ん 投稿日: 2014/06/07(土) 15:10:40 ID:A.lvtdtk
> 弘世先輩のミルクで抹茶ミルクを作るたかみー

このレスを見て、2~3レスくらいの短い話を書こうと思っただけだったのに、
10レス以上も掛かってしまった…。

74 :むい~ん 2014/06/08(日) 23:26:50 ID:08dgy3Bw

†私たちの誓子†

75 :1 2014/06/10(火) 23:35:01 ID:/FSYWPYo

──────────────────────────

タイトル:

尭深(淡ちゃんのおっぱいおいしい…)

──────────────────────────

76 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:35:30 ID:/FSYWPYo

弘世先輩が松実さんに告白すると決心した、その日の夜。
私たちはいつものように、二人で部屋のベッドにいた。
淡「…タカミ、どう? 私のおっぱいおいしい?」

尭深「…うん。おいしい…」

淡「良かった。じゃんじゃん飲んでね」

尭深「うん…」

私は再び淡ちゃんの乳首に吸いつく。
いつも元気いっぱいな淡ちゃんは、母乳の出もやっぱりいい。
ちょっと吸っただけで、どんどん出てくる。
最初の頃は、その勢いに飲むのがついていけなくて、口からあふれさせちゃったこともあるけど、
いつの間にか慣れてきて、こぼさずに飲み続けることもできるようになった。

でも、今日は、何かちょっとだけ違和感がある気もする。
最初は、単に乳首が硬くなっているだけかと思ったけど、どうもそうではなさそう。
乳首だけじゃなくて胸全体……ううん、もしかして、身体全体がこわばってる?

脳の片隅でそんなことを考えながらも、私は淡ちゃんのおっぱいを吸い続ける。
ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。

77 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:36:00 ID:/FSYWPYo

いつもおっぱいを飲み合うときは、淡ちゃんが私の服を脱がせて吸いついてくるところから始まる。
二人同時に飲み合おうとしてみたこともあったけど、
広くはないベッドの上では姿勢が難しくてやめてしまった。

淡ちゃんが私のをある程度飲んで満足すると、それから私がお返しに淡ちゃんのを飲ませてもらう。
すると、淡ちゃんはだいたい、私が飲んでいるうちに眠ってしまう。
満腹感なのか、気持ちいいからなのかは、よくわからない。
眠ってしまうと、やがて母乳の出も止まるので、私は淡ちゃんに服をちゃんと着せて、
そのまま抱き締めて眠りにつく。
途中で眠ってしまったときは最後まではしないのが、習慣になっていた。
ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。
でも、今日は珍しく、淡ちゃんが先に自分から服を脱いで、
「タカミ、私のおっぱい飲む?」と訊いてきた。

尭深「私が先に飲んでいいの…?」

淡「うん。いつも私が先だから、たまには気分変えてみよっかなって」

尭深「…じゃあ、お言葉に甘えて…」

私は淡ちゃんを仰向けにベッドに横たえ、自分はその左側につく。
眼鏡を外して目覚まし時計の隣に置き、「いただきます…」と言ってから吸いつく。
すると、淡ちゃんはほんの少しだけ身じろぎする。かわいい。

78 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:36:31 ID:/FSYWPYo

ところで、普通は、妊娠したことのない女子高生からは母乳は出ない。
でも、iPS法での姉妹になる手術をした後から、私たちは二人とも、母乳が出るようになった。
これは、手術に使ったiPS細胞そのものが、そういう仕様なのだと説明されている。

iPS法での姉妹が子どもを作る方法はいろいろあるけれど、
大別すると「妊娠する」か「妊娠しないで作る」かに分けられる。
妊娠して作る方法には更に、体外受精に相当する操作をした受精卵を体内に入れる方法と、
どちらかの身体に擬似男性器(いわゆる“iPS棒”)をつけて性交をするという、二通りがある。

一方、妊娠しないで作るというのは、体外受精した受精卵を
そのまま専用の育成器で十ヶ月育てる方法のことで、
これはiPS法の施行以前から、普通の男女の夫婦でも広く行われている。
妊娠や出産を経ないと、当然そのままでは母乳は出ないのだけど、
今はiPS細胞のおかげで、簡単な手術をすれば母乳を常時出せる身体にもなれるのだ。
また、ひとりひとりに成分を調整した合成の母乳を作ってくれる専門の会社もあるし、
服用中だけ母乳が出るようになる薬なども市販されている。
(たぶん、弘世先輩や宮永先輩は、この薬を使って母乳を出したのだと思う。)

…で、そんな手間を無くすために、iPS法での姉妹になる手術では、
二人の身体から母乳をいつでも思い通りに出せるようにするのが標準となったそうだ。
予め申し出れば、出ないようにすることもできたらしいのだけど、
私は、淡ちゃんの母乳を飲んでみたかったので、特に何も言わなかった。
たぶん淡ちゃんも同じ……、いや、淡ちゃん書類よく読んでなかったし知らないのかも…。

79 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:37:15 ID:/FSYWPYo

ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。

淡ちゃんのおっぱいおいしい…。

ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。
ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。

こんなにいっぱい飲めるの、もしかしたら初めてかも。
いつも淡ちゃん途中で寝ちゃうし…。

ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。
ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。

ほんとは、いつも淡ちゃんが私にしてくれてるみたいに、
あいてる手や足で、淡ちゃんをもっと気持ちよくさせてあげたほうがいいんだろうけど、
あんまりおいしくて、ほかのことがあんまりかんがえられない。

とうすいかん、っていうのは、こういうことなのかな。
漢字だとどうかくんだっけ。胸酔感?

いつのまにか、淡ちゃんの両手が、私のうなじに回っている。
かみのけ、なでてくれてる。きもちいい。

80 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:37:46 ID:/FSYWPYo

淡「…タカミ」

尭深「…なあに? 淡ちゃん」

私は飲むのを止めて顔を上げる。
淡ちゃんのかわいい顔が目の前に…

えっ?

尭深「どうしたの? なんで泣いて…」
81 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:38:16 ID:/FSYWPYo

淡「え、別に泣いてなんか……あれ? なんで私泣いてんの?」

尭深「もしかして、知らないうちに噛んじゃったりした…? ごめんね…」

淡「ううん、噛まれてなんかないよ。タカミに吸われてるのすごい気持ちいい」

淡「あー…、気持ちよすぎたから涙出ちゃったのかなー?」

どことなくセリフが棒読みだ。わかりやすい。
淡ちゃんは、だいたいいつもわかりやすい。
でも、泣いている理由までは、まだわからない。

理由は訊いたほうがいい場合もあるし、訊かないほうがいい場合もある。
いまはどっちだろう…。

82 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:38:46 ID:/FSYWPYo

…って、考えるまでもないか。
私と二人だけのときに突然泣き出したんだから、
その涙には、私に話を聞いてほしいっていう意味が、たぶん含まれてる。

尭深「淡ちゃん、何かあったの…?」

淡「んー、だから気持ちよすぎて涙出ちゃっただけだってばー。タカミもよくあるでしょ?」

尭深「それは、あるけど…」

淡「あー、でも、どっちかっていうと嬉し涙かも」

尭深「…?」

何だかよくわからない。
恋人に自分の母乳を飲んでもらうのは、もちろん嬉しいことだけど、
いまの淡ちゃんは、それとはまた違う気がする。
淡「タカミはさ、私のこと好き?」

唐突に、淡ちゃんは問いかけてきた。今まで何度もされている質問。
以前は、恥ずかしくて、答えるまでにちょっと時間が掛かったりしたけれど、
今はもう、二人きりのときだったら、すぐに答えられる。

尭深「うん。大好き…」

83 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:39:15 ID:/FSYWPYo

淡「じゃあ、スミレのことは好き?」

尭深「えっ…?」

何でここで突然、弘世先輩のことが出てくるんだろう。
これはたぶん、今までになかった質問。普通に答えていいのかな…。
尭深「…えっと、弘世先輩は、先輩として普通に好き…かな…」

淡「私とスミレとだったらどっちが好き?」

尭深「…?」
……あ、わかったかも。
理由めいたものを見つけた私は、十何センチか前ににじり寄り、
自分の顔を淡ちゃんに近づけて、
そのまま、くちびるとくちびるを合わせる。

そのまま、何秒か、何十秒か、お互いの口の中を味わう。

84 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:39:45 ID:/FSYWPYo

くちびるをつけたままでも喋れればいいのに。
なんて思いながら、私はくちびるを少し淡ちゃんから離す。

尭深「淡ちゃん、もしかして、私が弘世先輩のあれ味見したから、」

尭深「私が先輩にとられちゃうって思った…?」

淡「……うん」
> 照「恋愛成就のおまじない。自分の母乳を想い人に飲ませると両想いになれる」

宮永先輩のセリフが思い出される。
あんなおまじないの話は、あの場だけで終わったと思ったのに、
ずっと淡ちゃんは気にしてたんだ…。
気付いてあげられなくてごめんね。

尭深「…あのね、淡ちゃん。先輩たちには言わなかったけど…、
あのおまじないは、たぶん全然効果ないと思う…」

淡「そうなの?」

尭深「『月刊iPS』見てみたら、あのおまじないっていうのは、
裏表紙のところの、母乳が出るようにするお薬の広告に書いてあったから…」

85 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:40:15 ID:/FSYWPYo

淡「……裏表紙って、いつも変な招き猫とかネックレスとかの広告載ってるとこ?」

尭深「うん。それにお薬のメーカーも、招き猫とかと同じグループの会社みたい…」

淡「…もしかして、あのおまじないも、おっぱいの薬買わせるためのデタラメ?」

尭深「うん。たぶん…」

淡「テルーはともかく、スミレまでそんなのにだまされてるの?」

尭深「うん…」

弘世先輩は、真面目で頼りになる部長さんで、
どこか抜けたところのある宮永先輩をサポートする役どころ
……だと思っていた。インターハイまでは。

松実さんに出会ってからの弘世先輩は、すっかり宮永先輩と同じになってしまった。
雑誌の裏表紙に載っている変な広告にも、簡単に騙されてしまいそうなくらいに…。
「恋愛運を高めるネックレス」みたいなものでも、きっと躊躇わず買ってしまうだろう。

86 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:40:45 ID:/FSYWPYo

淡「……なあーんだー……」

淡ちゃんの身体から一気に力が抜ける。

淡「じゃあ、スミレはマフラーの人におっぱい飲ませても意味ないんだ。
教えてあげれば良かったのに」

尭深「ああいうのって、信じてる人に本当のことを教えるのは、とっても大変だから…」

淡「んー、そっか。スミレって思い込み激しそうだもんね」
さわさわ。さわさわ。
淡ちゃんの髪の毛が動いて、私の身体に這いよってくる。くすぐったい。きもちいい。
そういえば、今日は髪の毛の動きもなんだか鈍かった。
いつもみたいに動き始めたということは、淡ちゃんは安心してくれたのかな。

淡「そーいえば、スミレのおっぱいって、味はどうだったの?」

尭深「少ししか味見してないけど…、たぶん、淡ちゃんのほうが私好み…」

淡「スミレのは不味かったの? じゃあなおさらマフラーの人に飲ませたらダメじゃん」

87 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:41:15 ID:/FSYWPYo

尭深「うーん……、えっとね、たぶん、私が飲んだ感想と、
松実さんとかが飲んだ感想って、違うと思う…」

淡「どう違うの?」

尭深「好きな人のものだから、おいしいんじゃないかな…」
淡「…………///」
…あ、淡ちゃん赤くなった。
普段から何でも明け透けで、恥ずかしがることなんて滅多にないのに。
こんなレアな淡ちゃんもかわいい。

淡「……な、なに見てんのタカミ?! ほら、まだまだ出るからもっと飲んで?」

尭深「…うん。飲み干すまで離さないから…」

88 :むい~ん 2014/06/10(火) 23:41:45 ID:/FSYWPYo

その夜はずっと、私たちはお互いの母乳を飲み続けた。
ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。

ちゅぱちゅぱ。ちゅぱちゅぱ。
淡ちゃんのおっぱいおいしい…。
―おしまい―

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