【京咲SS】咲「嶺上開花」 京太郎「In the sky」

転載元 : http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437917572/l50

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:33:02.81 ID:fYLrIwqk0
短かい上に、ほぼ京ちゃんしかいないです。

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:35:49.26 ID:fYLrIwqk0
「暇だ……まじで暇だ……」
全国高等学校なんたらかんたら大会…通称インターハイ。略すと『インハイ』。
その麻雀大会に出場するために、俺たちは東京に来ていた。
とはいっても、俺はただの応援団。しかも一人。

インハイに出れない俺はアウトロー、とかいうネタを思い付いてみたけど、言う相手もいないので黙っておく。
清澄高校麻雀部は女子部員が5名に男が1。
俺以外はみんな、団体戦のメンバーだ。

当然、ほかのみんなと同じ部屋に泊まるわけにもいかず、わざわざ個室を用意してもらったわけだが…。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:37:45.78 ID:fYLrIwqk0
「暇すぎる……ホテルってマジでなんもねーのな…」

暇なんだ。
暇なんだ。
暇なんだ、本当に。
「昼間はまだしも、夜のこの時間だと外出すんのもあれだし。…咲辺りに電話でもしてみるか……いや、でも……」

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:41:09.28 ID:fYLrIwqk0

俺と違って、みんなは真面目な理由で来てるわけだ。
きっと今も、対戦相手の研究やらなんやらで忙しいのだろう。
だから、メールや電話をするのも気が引ける。

お気楽なのは俺一人。それ以外はみんな真剣勝負に来ている。

「いっそ長野で留守番しとけばよかったなぁ…。でも、ハギヨシさんと仲良くなれたのは東京に来たからだし……」
同じ電車に乗っていても。同じ場所で飯食ってても。

どこか感じる、疎外感。
俺だけが感じる、疎外感。
みんなが俺の手の届かないところにいるような、そんな感覚。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:44:34.59 ID:fYLrIwqk0

「和はともかく、咲や優希まで遠い奴らになっちまったなぁ……」
劣等感や憧憬じゃない。
そんな感情は全くない。
ただ、遠い…そう思う。

「……それにしても…暇だ……」

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:48:11.80 ID:fYLrIwqk0

物理的な距離じゃない。

意識が、遠い。
俺が理牌をする間、彼女たちは何を考えているのだろうか。
俺が河を見る間、彼女たちには何が見えているのだろうか。
きっと、認識している世界は違う。
おそらく、見えている景色は違う。

下から見上げる東京タワーと、スカイツリーから見下ろす東京タワーは、まったくの別物だ。

その景色の違いが、俺と彼女たちの距離。
だから、遠い。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:51:25.62 ID:fYLrIwqk0

かといって、何かできるわけでもなく。
することもなく、どうすることもできず。
考えても暗い気持ちになるだけなので、さっさと寝てしまおう。
……そう思い、布団を被った瞬間。
どぉん、という音が、微かに障子を揺らした。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:56:11.62 ID:fYLrIwqk0
「……花火?」

白い障子紙に映る、赤。緑。黄。青。
木の枠をずらすと、大輪の花。
時に重なり、時に連なり。
どぉんどぉんと空が鳴く。
「きれいだなぁ…」

考えず、意識すらせず、口からでた言葉。
「…やっぱ夏は花火だよなぁ……」
先ほどまでの憂鬱も忘れて、花火を眺める。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 22:58:43.12 ID:fYLrIwqk0

ふと気づくと、机が揺れる感覚。

花火とは違う、もっと別の振動。

「…電話。…咲から?」

それは、先ほど電話をしようとして、気が引けて結局掛けなかった相手の名前。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:01:22.60 ID:fYLrIwqk0
「もしもし、どうした?」

『もしもし!? 京ちゃん外見てる!? 花火だよ、花火!!』

「おう、こっからもよく見えるぞ」

『今日、花火大会だったんだって! ラッキーだね!!』

「夏だからな~。やっぱ夏は花火だよな」

『うんうん…あ!! 今の花火、花柄っ!!』

「そうだな。そっちはみんなで見てるのか?」

『うん! 和ちゃんが寝てたけど、さっき起きたよ。というか優希ちゃんが起こしてた。京ちゃんもこっち来なよ!!』
幼馴染からの魅力的な提案。

暇だ暇だと散々嘆いていた俺が出した答えは……。
「いや、いいや。俺は一人で見とくよ」

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:05:37.87 ID:fYLrIwqk0

『え~? くればいいのに。部長や風越さんもいいって言ってるよ?』

「移動してる間に終わったら嫌だしな」

『あ…それもそっか』

「それに…そっちは優希が騒がしそうだ」

『ふふっ、よくわかったね。ずっとタマヤーって叫んでるよ』

「電話からこっちまで聞こえてきてるよ。花火の音よりでかいんじゃないか?」

『そうかもね』

電話で話す咲は、どこにでもいる、普通の女子高生で。
昔と変わらない、そう遠くもない、普通の女子高生で。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:12:57.86 ID:fYLrIwqk0

そうだ。

咲も、優希も、和も。
遠い場所にいるのかもしれない。

手の届かない場所にいるのかもしれない。

でも、ただの高校生だ。
でも、同じ麻雀部員だ。
でも、一般的な人間だ。

根本が変わってしまったわけじゃない。
届かなくても、同じ空の下にいる。
届かない、あの花火を見上げてる。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:16:03.30 ID:fYLrIwqk0
なら、寂しいことなんて何もない。

あいつらだって、上を見てる。

上を目指して、頑張っている。
立ってる場所は違っても。

見ている場所が同じなら。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:19:40.73 ID:fYLrIwqk0

「咲が見てる花火を、俺も見てるんだな」

『どうしたの? いきなり』

「いや、なんか不思議だなって。別の場所にいるのに、同じ景色を見てるって」

『? ロマンチスト京ちゃんの誕生?』

「……ロマンチストとロストマンって似てるよな」

『…へ? いきなりなんの話?』

「分かんねぇ。なんか、考えがまとまらない……ボーっとしてるっつうか……なのに変にドキドキしてるっつうか……」

『……変な京ちゃん』

「だな。…そろそろ通話料もアレだし、電話切るぞ」

『え? あ、うん。そだね』

「おやすみ」

『おやすみ』

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:24:13.69 ID:fYLrIwqk0

そうだ。

きっと。 俺と咲は。 俺と優希は。 俺と和は。 そんなに違わない。
年齢だって一緒。学年だって一緒。学校だって一緒。生まれた国も、使う言葉も、住んでる県も。

どれだけ化け物みたいに思えても。
どれだけ遠い存在に感じても。

あいつらだって、俺みたいに。
空には、花火には、手は届かない。

なら、俺だってあいつらみたいになれる。

あいつらを抜かすことはできなくたって、追いかけることはできる。

あいつらと離されたって、同じ道を歩くことはできる。

あいつらに勝てなくたって、麻雀で強くなることはできる。

あいつらより弱くたって、麻雀を好きでいることはできる。

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:27:24.08 ID:fYLrIwqk0

「…暇だなんて言ってる場合じゃないぞ。勉強しねえと」

「まずは牌効率か? オリ方か? いや、それ以前に向聴数の数え方を…」

とりあえずの目標。

再来年までに、自力でここに帰ってこよう。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:30:55.76 ID:fYLrIwqk0

そうと決まれば、花火なんて見てる場合じゃないな。

花火は来年か、再来年。
またここで見ればいい。

障子を閉めようと、木の枠に手をかけた、その刹那。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:33:34.35 ID:fYLrIwqk0

俺の決意を奮い立たせるように。

一際大きな火の花が。

高い高い、夜空に咲いた。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/07/26(日) 23:35:54.34 ID:fYLrIwqk0

終わりです。

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