1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 20:45:02.87 ID:fw1J2G+u0
久「寝てる……」
宿泊所のロビーで、神代さんはすやすや眠っていた。
今さっき生まれた赤ちゃんのようだった。
だから私が見つけるまで誰も起こさなかったんだろうと思う。
私は浴場から部屋に戻る途中に、外の空気に触れたくなって、
フロントの方に向かう途中だった。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 20:45:53.86 ID:fw1J2G+u0
久「あのー」
全く反応しない。
久「おーい」
声をかけながら肩を軽く揺する。
久「生きてるかー」
ほっぺたを軽く叩くと、ようやく目を開けた。
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 20:47:22.14 ID:fw1J2G+u0
小蒔「……あなたは?」
久「清澄の竹井久です。神代小蒔さんよね」
神代さんはキョロキョロと首を振ってあたりを見回した。
小蒔「…またやってしまいました」
久「え?」
小蒔「いえ、こっちの話です」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 20:51:21.64 ID:fw1J2G+u0
小蒔「まっくら…」
神代さんはフロントから外を眺めて言った。
久「そうね、もうすぐ午後10時になるわ」
神代さんはスカートから携帯を取り出して、どこかに電話をかけた。
小蒔「もしもし…、うん、…場所?」
そう言って上目遣いに私を見た。
私は宿泊所の名前を言った。
小蒔「分かる? え、ちょっと待ってね」
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 20:55:46.65 ID:fw1J2G+u0
小蒔「あの、すみません。一緒の部屋に泊めていただけませんか?」
久「別に構わないけど、帰らなくてもいいの?」
小蒔「こっちに泊まるか、自力で帰ってきなさいって言われちゃって…」
久「へー、案外雑に扱われてるのねー」
小蒔「あ、はい、まあ」
久「別に平気よ。私たちの部屋に泊まればいいわ」
小蒔「ありがとうございます」
それからまた神代さんは携帯を耳にあてて、二言三言話して切った。
一緒に部屋に戻ると、まこが不思議な踊りを踊っていた。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:00:21.58 ID:fw1J2G+u0
まこ「おう、おかえりー」
いや、不思議な踊りじゃなかった。
まこが言うには、先祖代々伝わる美容体操らしい。
久「まこの先祖ってちょっとおかしいんじゃないの?」
まこ「…効果があるから伝わっとるんじゃ」
まこは変なポーズから、別の変なポーズに移行したとき、
ようやく神代さんに気づいた。
まこ「あれ? またナンパかいな」
久「違うわよ」
振り返ると神代さんは目をくりくりさせていた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:05:12.40 ID:fw1J2G+u0
久「ああ、ごめんね。怖かったわね」
まこ「別に怖くないわい」
神代さんは何も言わずにうつむいた。
まこは部屋の真中にあるテーブルの側のイスに彼女を招き入れた。
まこ「で、どうしたん」
まこは全ての体操を終了させたのかベッドに座って言った。
久「一晩泊めるから」
まこ「へー。何でまた」
久「何で…って」
神代さんはうつむいていた。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:08:42.05 ID:fw1J2G+u0
そして何も言わなかった。
私はフロントに電話をかけて、彼女を泊めることに付いての了承をとった。
まこは顔に保湿液を塗った。
私は髪を丹念に梳かした。
二人で、彼女が話しだすのを待った。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:14:25.62 ID:fw1J2G+u0
耐え切れず口を開いたのは私だった。
久「あの服、普段は着てないのね」
小蒔「へ?」
久「試合の時に来てた、あの巫女さんが着るような服」
小蒔「はい、特別な服なので」
久「へー、私たちの制服みたいなものかしら」
小蒔「よく分かんないですけど、そうだと思います」
まこ「あんたは制服について発言せんほうがええわ」
久「え、なんでよ」
まこ「はは、わしゃあもう寝る」
まこは布団に潜った。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:20:26.24 ID:fw1J2G+u0
久「ごめんね、ちょっと変な子なのよ」
まこ「おまえさんにゃぁ及ばん」
既にちょっと眠たげな声が聞こえてきた。
神代さんは、ようやくリラックスしたのかくすくす笑った。
久「神代さん、お風呂はどうするの?」
小蒔「あ、どうしようかな…」
久「一応朝も入れるみたいだけど」
小蒔「じゃあ、そうします」
久「うん」
救急車かパトカーの音が外から聞こえてきた。
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:28:37.72 ID:fw1J2G+u0
久「ねぇ、それで改めて聞いておきいんだけど」
私は声のトーンを変えて言った。
久「どうしてあんなところで寝てたの? どうして誰も迎えにこないの?」
小蒔「…こういうことって、よくあるんです。
いつの間にかふらふら外に出歩いて、
そして行き着いた先で眠っている」
久「初めてのことじゃないのね」
小蒔「はい」
久「そっか、でも誰も迎えにこないのはどうして?」
小蒔「あんまり何度もこういうことがあったから、
みんな呆れちゃったのかも知れませんね」
そう言って神代さんは笑った。
久「でも怖い目にあったりとかは…」
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:34:07.01 ID:fw1J2G+u0
小蒔「一回もありません」
久「ふーん。でも油断するのは良くないわ。悪い人はたくさんいるのよ」
小蒔「別に大丈夫ですよ。だって私」
私が身を乗り出したとき、
神代さんは大きくあくびをした。
久「眠い?」
私は笑いかけた。
小蒔「…はい」
神代さんも笑った。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:40:20.28 ID:fw1J2G+u0
その後、二人で布団に潜った。
浴衣をもう一着借りようかと言ったけれど、彼女はそのままでいいですと言った。
久「神代さん、まだ起きてる?」
小蒔「…はい」
久「あ、眠かったら別にいいわよ」
小蒔「眠れないんですか?」
久「あはは、最近ちょっとね」
小蒔「私もさっき寝たから」
久「よく寝てたわよねー」
小蒔「す、すいません…」
久「別にいいわよ。ロビーで寝てなかったら、こうして一緒にねることもなかったわけだし」
小蒔「えへへ、そうですね」
久「ま、寝れないのはさすがに苦しいけどね」
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:44:51.91 ID:t+7soGoxi
珍しい組み合わせだな
支援
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:47:08.03 ID:fw1J2G+u0
久「眠れない時ってろくな事考えないじゃない?」
小蒔「どうして眠れなくなったんですか?」
神代さんって無邪気な人だなあって思った。
私も無邪気に応対することにした。
久「そうね、神代さんも見てたと思うけど、二回戦私ダメだったじゃない」
小蒔「…ごめんなさい、寝てたと思います」
久「ははは…、ともかくあんまり良くなかったの。
結果的に和や咲にも負担をかけることになったのね」
小蒔「はい…」
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 21:55:23.73 ID:fw1J2G+u0
久「だからさ、次はそうなんないようにしなきゃなって思うんだけど。
そう思うのがプレッシャーになってるのかな」
小蒔「そうなんですか…」
久「こんなのって私らしくないな、とは思うんだけど」
小蒔「…」
久「…あーあ、私も神代さんみたいにふらっとどこかに行っちゃいたいな」
小蒔「いや、ダメですよ」
神代さんは妙にきっぱりと言った。
久「じょ、冗談よ、そんなことしないわ」
小蒔「竹井さんは、まだここにいなきゃだめです」
久「じゃあいつまでいればいいの?」
失言に気づいたときには遅かった。
後悔で顔が火照っていく。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:05:54.54 ID:fw1J2G+u0
小蒔「その時を告げるのは、竹井さんではありません」
久「どういうこと?」
小蒔「上手く言えないけど、今はここから離れちゃいけません」
久「『その時を告げる』のは誰なの? 神様?」
小蒔「この世のものではないことは確かですが、神様ではありません」
久「神代さん、あなたって何者なの?」
小蒔「私は…」
神代さんが腰を手に回してきた。
小蒔「それを言葉で説明することこそ、最も難しいですね」
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:06:42.98 ID:F0V3XrZG0
あらあら!?
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:10:19.74 ID:4JtHP7mo0
同じ布団に寝てるだと…?
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:14:46.06 ID:fw1J2G+u0
まこ「おはようさん」
朝起きると、まこの目が冷たかった。
まこ「昨晩はお楽しみで」
久「違うわよ、何にもしてないって」
まこ「やめろとは言わんけえ、うちの隣の布団でするんはよしぃや」
久「してないですー。ほら状況証拠ー。
布団だってきれいなまんまだし、
ほら神代さんだって傷一つなく」
まこ「そりゃあ後で直したんじゃろうが! 何度おまえさんの喘ぎ声で起きた思うとんじゃ」
久「…ごめん、マジで何も覚えてないの」
まこはため息をついて、もう一度布団に入って二度寝を始めた。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:17:23.25 ID:F0V3XrZG0
姫様……?
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:18:12.92 ID:4JtHP7mo0
おいそれってどういう…
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:22:27.99 ID:fw1J2G+u0
しばらく呆然としていると、今度は神代さんが起きた。
小蒔「あ…、おはようございます」
久「おはよう…」
小蒔「今何時ですか」
久「8時46分だけど」
小蒔「…いけない! 9時に表に迎えが来るはずなんです!」
久「あら、そうなの。わかったわ」
私は神代さんを宿泊所の玄関まで送っていった。
迎えの車を一緒に待っているときに、私は神代さんに聞いた。
久「昨日の夜、私に何をしたの?」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:30:00.81 ID:fw1J2G+u0
小蒔「竹井さんの一部を私の中に移しました」
久「は?」
小蒔「竹井さんの後悔、恥ずかしかった気持ちや寂しかった気持ち。
今は私の中にあって、それをたしかに今も感じます」
神代さんはただ前を向いていて、髪の毛が風にゆれている。
久「…それが本当だとして、神代さんは大丈夫なの?」
小蒔「…それが与えられた仕事なので」
私は何も言えなかった。
その内に迎えの車がやってきて、神代さんはそれに乗って帰っていった。
それで私がどうなったかというと、何が変わったような気もしない。
まこの冷たい感じもその日のうちに無くなって、まだ全国大会は終わらない。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/01(月) 22:31:29.86 ID:fw1J2G+u0
短いですが終わりです
楽しんでもらえたら幸いです